PVCプラスチック使用の段階的廃止
はじめに
Axisの事業において重要な一端を占めるサステナビリティは、当社の運営に統合されています。また、これは、当社の成長において重要な役割を果たす要素でもあります。そのため、当社はすべての事業部門を、高い責任と透明性を持って、信頼性のある方法で運営することに注力しています。アクシスコミュニケーションズは、国連グローバル・コンパクト(GC)に賛同し、輸出規則に準拠している数少ない監視技術企業の1つです。環境に優しい持続可能なソリューションを提供することに対する取り組みは、当社が築かれた創業の精神に根ざしています。当社が提供するテクノロジーとこれを市場に提供する方法の両方の観点から、当社はよりスマートかつ安全な世界を構築することに焦点を当てています。
企業の社会的責任(CSR)を会社全体の基盤として据える当社は、強力でダイナミックな企業文化に基づくオープンな組織環境を構築しています。ビジネスとして成功する上で、これは不可欠な要素であると当社は考えています。国連グローバル・コンパクトへの賛同を表明する署名を行った当社は、サプライヤーとパートナーに対しても、Axisのサステナビリティへの取り組みと当社行動規範に準拠した運営と行動を要請しています。同規範には、国連グローバル・コンパクトに定められている人権、労働、環境、腐敗防止の10原則に遵守したビジネス倫理要件が含まれています。
Axisは、すべてのビジネスプロセスとバリューチェーン全体においてサステナビリティを考慮に入れることを目指しています。当社は、経済的責任、ビジネス倫理、環境的責任、社会的責任の4分野を視野に入れて、サステナビリティへの取り組みを実施しています。健全なコーポレートガバナンスにより、当社のサステナビリティへの取り組みの基盤が成り立っています。当社は、環境への悪影響の最小化、健全な職場環境の促進、汚職対策、人権侵害の防止に注力しています。こうした当社の取り組みは、当社製品へのPVC(ポリ塩化ビニル)使用の段階的廃止を含め、新しくスマートで環境に優しく、そしてエネルギー効率の高いネットワークビデオ製品とソリューションの開発に向けた継続的な取り組みと密接に関連しています。
プラスチック:持続不可能なイノベーション
プラスチックにより、他ほとんどの化合物とは比べられないほど、世界が多くの点でより革命的に変化し、人々の生活が改善されました。衛生的な食品や水の取り扱いから、医療環境における危険な感染症拡大の防止に至るまで、プラスチックは1907年に開発されて以来、複雑な状況における解決策としての役割を果たしてきました。しかし、社会では、天然資源の過剰使用が長期的な発展に悪影響を及ぼすことへの懸念、またこれが持続可能な事業運営方法ではないという認識が高まっています。それでも、現在も人々は、日常生活においてプラスチックに依存しています。
長期的なAxisの企業目標の1つとして、製品へのPVC使用を段階的に廃止することが挙げられます。Axisは、技術、健康・衛生、サステナビリティの観点を考慮に入れたイノベーションの原則を基盤として成り立っています。よりスマートなネットワークソリューションによりビジネスインテリジェンスを向上させることへの取り組みが、技術面の原動力となっています。1996年に世界初のネットワークカメラを開発して以来、Axisはよりスマートで安全な世界の形成に向けたイノベーションと開発への取り組みを継続してきました。今日、ほぼすべての分野において、PVCの代わりとして品質を損なわずに使用できるの代替品が存在しています。長期的に持続可能なイノベーションの実現を目指す組織は、この事実をより深く考慮する必要があります。
プラスチックにより人間や動物の健康に及ぼされる潜在的な影響を考慮すれば、カメラへのPVCプラスチック使用を段階的に廃止するという当社の継続的な構想が、サステナビリティと企業の社会的責任に関するイニシアチブの全分野に当てはまることは明らかです。PVCプラスチックとこれに含まれる添加物については、火災時の影響、がん、喘息、生殖能力に関する懸念が高まっています。また、リサイクルが難しい素材でもあるPVCは、多くの場合、不適切な廃棄物管理の対象となっています。これが危険なプラスチックごみの山やプラスチックの燃焼につながり、環境に相当な悪影響が発生しています。
PVC:知っておくべき事柄
塩化ビニルの重合反応により生成されるPVC(多くの場合、米国では「ビニール」と呼ばれる)は、合成樹脂の1つです。水素原子と塩素原子が結合した長い炭素鎖で構成される白色のもろい固体がPVCの原料となります。PVCの製造には、ダイオキシンや塩素といった強力な発がん物質や毒素を生成する多くの化学物質が使用されます。PVCは耐用期間が過ぎてもリサイクルすることが困難で、自然に分解されることがありません。PVCは世界で最も一般的に使用されているプラスチックの1つですが、性質が脆いため、柔らかくする可塑剤を加えなければ、有用なプラスチックとしては使用できません。
そのため、柔軟性を高め、劣化を防ぐことを目的として、可塑剤や安定剤として知られる添加剤がPVCに加えられます。よく使用される可塑剤の1つとして、フタル酸エステルが挙げられます。これは製造プロセス中に追加される物質ですが、PVCプラスチックに化学的に結合しないため、これにより周囲の環境がフタル酸エステルに暴露される可能性があります。2015年には、世界で生産された可塑剤の80~90%がPVCの柔軟性を高める添加剤として使用されています。
可塑剤の総消費量の中でフタル酸エステルが占める割合は、2014年には2005年の約88%から減少して約70%となりました。この割合は世界的に減少傾向にあると推定されています。この現象は、代替品となる新しい材料の登場と法規制の強化に起因するものです。2019 年には、PVCに関連する4種のフタル酸エステルが有害物質の使用制限に関するEU指令2011/65/EU(RoHS)に追加されたことで、電子製品においてこうした物質の使用が制限されました。
PVC:リスク
PVCプラスチックにより環境と健康にもたらされるリスクを評価する際に考慮すべき重要な要素は2つあります。1つ目は原材料自体、2つ目は多くの用途で有用となるように添加されるフタル酸エステルです。たとえば、フタル酸エステルを添加して製造された柔軟なPVCは、一般的にケーブルやワイヤーの絶縁に使用されます。
PVCプラスチックの主な懸念事項は、火災により発生するリスクです。PVCは燃焼すると、塩化水素 (HCl)ガスが放出される可能性があります。これは深刻な健康上の懸念となります。また、燃焼を水で消火すると、これが塩酸に変化します。塩酸は腐食性があるため、これにより、周囲の機器や人間といった環境に重大な損害が発生する可能性があります。完全に洗浄しないと、酸がコンクリートに浸透して、鉄筋構造が腐食する危険性もあります。つまり、火災発生から数年後に、ガレージや吹き抜けといったコンクリート構造物が突然に崩壊するなど、悲惨な結果が発生し得るということです。
焼却炉か直火かに関わらず、PVCが燃焼すると、ダイオキシンが生成されます。既知のヒト発がん物質であるダイオキシンは、世界で最も有毒な化学物質の1つとされています。過去にダイオキシンに暴露した消防士のがん発症率は、一般的に高いと言われています。偶発的な火災や燃焼廃棄物により発生したダイオキシンが風で運ばれ、周囲の環境に留まります。これが植物や動物、そして最終的には人間に蓄積します。
現在では、屋内火災など、煙が深刻な安全リスクを引き起こし得るエリアで電気や通信インフラストラクチャーを構築する際は、PVCフリーのケーブルを使用することが一般的になっています。現在のところ、防犯カメラや他の電気機器メーカーに対する法的義務は課されていませんが、より安全かつ持続可能な代替品が存在するのであれば、リスクの高い危険な材料を選択することは賢明とは言えません。
根源:フタル酸エステル
職場や家庭など、日常的な生活環境で使用されているプラスチック製品から、フタル酸エステルが周囲に放出されることが知られています。これは、この物質がプラスチックに化学的に結合していないためです。フタル酸エステルは、製品のライフサイクルを通して放出されます。つまり、誰もが空気、食物、接触した物体を介してフタル酸エステル類に暴露する可能性があるということです。
一般的にフタル酸エステルはさまざまな製品に含まれていますが、詳細な研究が行われているのはそのごく一部にすぎません。その中には、生殖能力の問題、乳がん、喘息、注意欠陥多動性障害、肥満、2型糖尿病、低IQ、神経発達の問題、行動の問題、自閉症スペクトラム障害との関連性が知られているものがあります。
児童と妊婦はPVC製品関連の危険性に曝される可能性が最も高いとされており、体内のフタル酸エステル濃度も高い傾向にあると考えられています。幼児の場合は、玩具や床のほこりに起因してフタル酸エステルの体内濃度が高くなる可能性が最も高いとされています。多くの場合、ほこりには、一般的にPVCが使用されている電子機器やプラスチック製の床といった物体から放出されるフタル酸エステルが含まれています。
現在の規制および将来的に制定され得る法律への準拠
セキュリティ業界で使用されている物質に関しては、REACH規制(化学物質の登録、評価、認可、制限)、RoHS指令(有害物質の使用制限)、WEEE指令 (電気・電子機器廃棄物の再利用とリサイクル)など、多くの規則や規制が制定されています。規制コンプライアンスに関して一般的に混乱しやすい2つの規制として、RoHSとREACHが挙げられます。両方共に欧州連合(EU)指令であるため、この2つが同じ規制として混同される傾向にあります。
簡単に説明すると、RoHSは、市場の電子・電気機器に特定の重金属と難燃剤を含有させることを禁止または制限するEU指令(2011/65/EU)です。一方、REACH は、化学物質とその安全な使用に関して欧州連合が制定した規則です。この規制は、工業プロセスと日常生活の両方で使用される化学物質すべてに適用されます。これは、化学物質の製造と使用だけでなく、成形品や製品にも適用されます。これにより、深刻な悪影響を及ぼし得る物質として高懸念物質(SVHC)候補のリストに収載された物質1が製品に含まれている場合、Axisはこれを顧客に通知する義務があります。この候補リストに含まれている物質は、将来的に禁止される可能性のある物質です。
可塑剤としてPVCに使用されるフタル酸エステルの多くは、すでにREACHの候補リストに追加されています。このうちの4種類2が2019年にRoHSに追加され、電気製品への使用が禁止または制限されました。将来的に制定される可能性のある法律にも準拠できる準備を整えるため、Axisは一歩先を読んで措置を講じることを目指しています。当社が2009 年から、製品におけるPVCの使用の排除に取り組んできたのはこのためです。
1http://echa.europa.eu/に記載されています。
2 フタル酸ブチルベンジル(BBP)、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DEHP)、フタル酸ジブチル(DBP)、フタル酸ジイソブチル(DIBP)
PVCの使用を段階的に廃止するAxis
Axisは長期的な目標として、ハロゲンフリーのソリューションを提供することを目指しています。JEDEC/ECA JS709に基づくと、製品に使用されている材料におけるハロゲンの塩素または臭素の含有量がそれぞれ900 ppm以下であれば、または塩素+臭素の含有率総量が1500 ppm以下であれば、その製品はハロゲンフリーと見なされます。塩素と臭素は両方共に、電気製品で一般的に使用されている物質です。この目標の達成に向けた重要な第一歩として、AxisはカメラからPVCベースの部品を排除することを決断したのです。
よりスマートかつ安全な世界の構築を目指して革新を図るという理念を基盤とする当社は、環境と人間の健康に悪影響を及ぼすPVCとフタル酸エステルを排除することは正当な義務であると感じています。これまでのところ、PVCを段階的に廃止する取り組みは着実に成果を収めています。現在、Axisのカメラとエンコーダの約90%がPVCフリーの製品となりました。
多くの場合、PVCの代替品はより高額ですが、Axisはこのコストが製品価格に影響を及ぼさないよう注力しています。これは、当社の社会的責任に対する取り組みの一環です。将来的に持続可能な材料が一般的に使用されるようになれば、そのコストも低下すると考えられます。そうすれば、この価格低下が大きな動機となり、他の組織も環境に優しい持続可能な材料を使用し始めると考えられます。
Axisのソリューションにおいて、PVCの代替品として最も一般的に使用されている材料は、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリエチレン(PE)、架橋ポリエチレン(XLPE)です。これが持続可能かつ安全な環境の構築につながります。
すべての人々にとってよりスマートかつ安全な世界の構築に向けて
今日、業界は、PVCプラスチックの使用を既定の選択肢と考えるのではなく、時代遅れの概念と捉えるべきです。イノベーターとして実績高いAxisには、市場を先導する義務があります。これにより、当社の設置業者や顧客が将来性のあるソリューションを取り扱うことで競争上の優位性を獲得し、最新の規制に準拠できるだけでなく、社会的責任と環境的責任を確実に果たせるようになります。
企業が持続不可能なプラスチックの使用について検討する際は、利用できる代替品によりもたらされるメリットを考慮に入れる必要があります。そのメリットとして、危険性や発病のリスク、火災発生時に従業員や消防士に及ぼされるリスク、PVCの燃焼による建物の損傷リスク、また環境破壊リスクを削減できることが挙げられます。企業は、技術とサステナビリティの両方の観点から革新的かつ高品質な製品を求めています。
社会的責任を事業の中核に据えるAxisは、PVCの排除を第一歩として、サステナビリティへの取り組みを継続的に拡大していく構えです。