目的に応じた品質
概要
画像の有用性に求められるものは、高解像度だけではありません。映像監視システムが、設置から廃棄に至るまで正常に機能するには、いくつかの要素を考慮し、対策を取る必要があります。これは、ユースケースの特定、環境の把握、目的に応じた設計、メンテナンス計画の実施という、4つの手順にまとめることができます。期待に応える監視システムの設計と設置については、専門のシステムインテグレーターの力を使うことを強くおすすめします。
はじめに
映像監視において、画質は極めて重要な役割を果たします。監視システムを設計する際は、主要な目的と、将来的に映像がどのように使用されるのかを把握することが重要です。目的と特定の諸条件を慎重に分析することで、初めて的確な要件を決定し、画質だけでなく画像の有用性を保証することができます。
画像の有用性について考察するときは、計画段階と製品寿命全体の両方で、映像監視システムとその目的をより包括的に把握する必要があります。たとえば夜間に十分な照明がない場合やカメラの向きが変えられた場合、またはシステムの接続が失われた場合などは、最高級の監視カメラによる最高品質のビデオストリームでも役に立たなくなる可能性があります。
このホワイトペーパーは、4つの手順に分かれています。各手順には、監視映像の初期段階における有用性と長期的な有用性を確保するために考慮すべき、複数のトピックが含まれています。また、意思決定が困難になりがちな作業を簡易化するための、ツールへのリンクも含まれています。
最初の手順では具体的なユースケ―スを特定し、それがシステム設計の決定にどのような影響を与え得るかを考えます。手順2では環境による影響について、手順3では目的に応じた設計のコンセプトについて検証します。最後の手順4では、映像素材の使用が必要なときにシステムが期待通りの映像を確実に配信するよう、長期的な課題について考察します。
画像の有用性を実現するための4つの手順
ユースケ―スの特定
監視システムを設計する際は、まずユースケ―スを特定することから始めます。最初に、全体映像をとらえるカメラと、識別に適した詳細情報を提供するカメラから選択します。全体映像用カメラは、シーン内で何が起きたかに関する全般的な情報を、識別用カメラは、そのシーンにいた人物に関する情報を提供します。
この2つのタイプのカメラの主な違いは、モデルやメーカーではなく、ピクセル密度と視野です。カメラから被写体に対する傾斜角も、非常に重要です。カメラのパフォーマンスが該当のユースケ―スのニーズを確実に満たすようにするためには、いくつかの要件を考慮する必要があります。
ピクセル密度の要件
ユースケ―スは、以下の表のように、モニタリングから検証までの監視等級に分類できます。各等級は、目的を達成するために必要となる、監視対象のピクセル数によって決められます。
等級 | ピクセル/m | ピクセル/ft | 傾斜角 |
モニタリング | 12.5 | 4 | 重要度低 |
検知 | 25 | 8 | |
観察 | 63 | 19 | |
認識 | 125 | 38 | 重要度中 |
識別 | 250 | 76 | 重要度高 (<20°) |
検証 | 1000 | 305 |
たとえば、立ち入り制限区域に人が入ったときはアラートを送信する必要があるものの、その人物を認識したり識別したりする必要はない場合、ユースケ―スは「検知」になります。表に記載されているように、検知には監視エリア全体で約25ピクセル/mのピクセル密度が要求されます。
ピクセル密度の要件を実際のシナリオに変換するには、設計ツールが役立ちます。このツールを使用することで、必要なピクセル密度を指定してから、ツールのカメラの取付高さと視野を調整して、カメラがユースケース要件を満たすことができるかどうかを判断することができます。AXIS Site Designerの詳細については、www.axis.com/sitedesigner/をご覧ください。


インテリジェント機能の要件
インテリジェント機能搭載カメラは、ユースケースの要件の決定に、さらなる複雑性をもたらします。ナンバープレート認識や人数計測など、非常に特殊な目的でカメラを使用する場合は、その目的を確実に満たすよう設置する必要があります。インテリジェント機能のソフトウェア開発者は一般的に、必要なレベルの精度を確保するために要求されるピクセル密度、取り付け高さ、視野に関する詳細な要件を課しています。これらの要件に従い、そのインテリジェント機能を実際の環境でテストすることが非常に重要です。
特定の被写体の要件
ユースケースを特定する際は、監視の対象となる被写体のタイプも考慮する必要があります。車両などの高速で動く被写体をとらえるには、動きによる画像のブレや、その他の画像の乱れを最小限に抑えるため、特に低照度条件下では、カメラのデフォルトの画像設定を調整しなければならない場合があります。たとえば、夜間やその他の低照度条件下でナンバープレートをとらえる必要がある場合は、照明の追加を検討する必要があります。
環境の把握
環境は、カメラの長期的な動作に大きく影響します。実質的に、どのカメラも晴れた日の正午であれば鮮明な画像を提供できます。しかし、陽が落ち始めたり、雨が降り始めたりしたときはどうでしょうか?あらゆる条件下で高品質の画像を維持するには、詳細な検討が求められます。
目的にぴったりなカメラモデルを選択するプロセスを簡略化するには、Axisプロダクトセレクターなどのツールが役立ちます。ツールを使用することで、温度範囲、IK保護等級、IP保護等級、WDRパフォーマンスなどの環境要因に基づき、ビデオカメラを絞り込むことが可能になります。Axisプロダクトセレクターは、Axisのツールポータル (www.axis.com/tools) からアクセスできます。
照明
多くのカメラには内蔵の赤外線照明オプションが付いています。シーンの光条件への依存を排除する、非常に安心な手段です。照度が低くなりすぎると、カメラは赤外線照明を起動し、白黒画像に切り替えます。赤外線照明は人間の目には見えず、その存在を示すのは、LEDの赤いランプのみです。
赤外線照明が現場検証向けの詳細画像に影響を与える可能性があることは、あまり知られていません。物体から反射される赤外線の光度は、素材の色には左右されず、その構造によって変動します。そのため、赤外線照明使用時は、色味の暗いシャツが明るい白として表示される可能性があり、またその逆の場合もあります。
現場検証に適した高精細画像の必要性が高いほど、可視光の使用を考慮する必要があります。可視光は抑止力効果が非常に高く、最初の段階からインシデントの発生を防ぐことが可能です。一方、光害や省エネの観点から可視光を使用しないという考え方もあります。
低光量のシーン向けには、暗闇に近い状態において、高解像度のカラー画像の生成を最適化することを目的とした、Axis Lightfinderなどのテクノロジーがあります。低光量のシナリオでは、一般的にカメラは白黒モードに切り替わりますが、識別が要求されるユースケースでは、カラー情報の保持が役立つ場合があります。
監視映像にとって課題となるのは、光量不足だけではありません。ワイドダイナミックレンジ (WDR) と呼ばれる、明るい部分と暗い部分のコントラストが大きいシーンでは、詳細部分が失われないよう、慎重に対応する必要があります。WDRが頻繁に発生するシーンには、エントランス、トンネル、屋内駐車場などが挙げられます。また、陽射しの明るい日中に建物が影を作る屋外でも発生することがあります。こういったタイプのシナリオでは、カメラにWDR機能を搭載することが推奨されます。Axisのカメラは、要件の厳しいシナリオ向けに最適化された、さまざまなWDRテクノロジーをサポートしています。
残念ながら、データシート上のカメラのダイナミックレンジレベルは、一般的に対数を用いてdB (デシベル) で表されます (例: 120 dB)。この数字では、カメラの実際のWDR性能に関する情報はほとんど得られません。たとえば、dB値には動きがどの程度確実に処理されるかに関する情報が一切含まれていません。そのため、WDRのパフォーマンスをテストすることを強くおすすめします。
画像の乱れが画像に悪影響を与えるかどうかを示す、非常に簡単なテストがあります。カメラからあまり遠くない場所に立っている人が両腕を振り、録画を見て腕に「ゴースト」障害が発生している場合は、識別を目的としてカメラを使用するには、WDRのサポートが不十分であることを示します。ただし、ユースケースによっては、必要な情報が取得できれば、こういった画像の乱れが許容範囲となる場合もあります。
屋内向け vs. 屋外向け
屋外への設置は通常、屋内への設置よりも多くの課題をもたらします。たとえば、高温・低温、湿度、太陽からの紫外線などが挙げられます。Axisでは、製品名に「-E」という拡張子を付け、カメラが屋外での使用向けに承認されているかどうかを仕様書に明記しています。
IP66等級は、カメラが屋外での使用向けに認証されていることを保証するものではありません。ただし、屋外対応カメラは、厳しい天候条件に対応できるよう、IP66等級を満たしている必要があります。等級 (IP67またはIP68) が高いから耐久性により優れているというわけではなく、IP67等級のカメラが全天候型であるとは限りません。たとえば水圧に関するIP66の試験条件は、装置を短時間の間水に沈めるだけのIP67試験よりもはるかに過酷です。
ウェザーシールドやワイパーなどのアクセサリーは、水滴や泥はねなどの障害から確実にカメラを保護し、雨天に対する耐性を高めることができます。
温度範囲
カメラの設置場所の温度範囲を考慮し、カメラの動作最低温度と最高温度が条件を満たしていることを確認する必要があります。高温条件下では、カメラ自体の熱管理が重要です。電子機器の温度が高くなりすぎると、画質は徐々に低下します。熱管理に対するカメラの性能をよく確認し、製品設計において熱管理がどのように考慮されているかに関する詳細な情報をメーカーに問い合わせることをおすすめします。
破壊行為のリスク
破壊行為の問題が予測される場合は、IK等級が高い装置を検討する必要があります。これは通常、屋外で使用されるカメラに関係します。天井の低い駐車場に設置されたカメラや工業施設に設置されたドアステーションなど、手が届きやすい装置には極めて重要です。IK等級が高いほど装置の堅牢性は高くなりますが、破壊できないわけではありません。一部の装置は、いたずらされたり衝撃を加えられたりした場合に、監視アプリケーションへ通知を送信することができます。
また、カメラは向きを変えられたり、不正に操作されたりする可能性もあり、一部のカメラタイプはその他のタイプよりも露出部分が大きくなります。不正な操作のリスクを回避するため、一般的には固定ドームカメラが推奨されます。
目的に応じた設計
映像監視システムは安全面に加えて、保険料や人件費の削減、在庫減少の低減など、資金面でも多くの利益をもたらす可能性を秘めています。しかし、具体的な目的を念頭に置いてシステムを設計しなければ、こういったコストカットの恩恵を得られる機会は大幅に減少します。しっかりとした計画が立てられていないと、カメラを適切な位置に設置できず、向きが不適切であったり、適切な画質を得られなかったりする結果になりかねません。
以下は、重要なエリアに基づいた映像監視システムの設計に対する、構造的なアプローチに関する簡単な説明です。
重要なエリアの特定
映像監視が必要な場所にはすべて、特に注目すべきエリアがあります。店舗ではレジや倉庫など、都市では人通りの多い広場や公共事業エリアなどが挙げられます。監視対象の敷地における、こういった重要エリアを特定することが必要です。
リスクとセキュリティ目標の特定
各エリアには、特有のリスクがあります。レジでは盗難や不正行為、都市の広場では暴力行為や破壊行為などが挙げられます。エリアにおけるリスクを特定することで、カメラを設置するための基本を得ることができます。次に、セキュリティ目標の要点をまとめ、リスクに対応します。
目的がレジにおける盗難や不正行為を低減することであれば、セキュリティ目標は、カメラが現金取引の様子を確認できるようにすることです。同様に、目的が広場における破壊行為の低減であれば、セキュリティ目標は、破壊行為が最も発生しやすい夜間に、カメラが高画質の画像をとらえられるようにすることになります。
セキュリティ目標を実現するためのビデオ装置の選択と設置
目的に応じた設計の最終段階は、セキュリティ目標を使用し、情報に基づいてカメラとその配置を選択することです。たとえばレジでの現金取引を監視するには、カメラをレジの真上に設置し、紙幣の種類を特定するために十分な解像度を備えるカメラを使用するのが最善です。レジのカウンターは、光沢があり光を反射する素材で作られていることが多いため、WDR搭載カメラもおすすめです。破壊行為防止を目的とする場合は、可能な限り広場の広い範囲をとらえ、現場検証用として十分な画質を確保できるよう、視野が広くLightfinderに対応した高解像度カメラをおすすめします。
メンテナンス計画の実施
最適な設計のシステムであっても、適切に管理しなければその効果は得られません。映像監視システムの寿命は最大で10年ですが、どんな装置でも何らかのメンテナンスを行わなければ、その間連続して動作することは不可能です。以下は、システムが有用な画像を配信し続けることを保証するための、3つの要素です。
定期メンテナンスの計画
カメラには汚れやほこりが付着します。また、ドームには雨粒の跡が残り、ケーブルは摩耗します。このような環境要因による画像の有用性への悪影響を防ぐには、少なくとも6ヶ月ごとのメンテナンス計画を立て、設置状況に応じて、さらに頻度を増やします。過度に詳細なメンテナスを行う必要はなく、多くの場合はカメラに付着物がなく、ケーブルに損傷がないことを確認するのみで十分です。
カメラの常時モニタリング
大規模なシステムでは、オペレーターが現場に到着した際に、一部のカメラがオフラインになっていることに気付くことは珍しくありません。システムが積極的にモニタリングされていない場合、カメラがオフラインになっていても、何らかの事象が発生し映像が利用できないとわかるまで、誰も気づきません。これは非常に高いコストを引き起こしかねない状況ですが、今日のテクノロジーを使用すれば容易に回避することが可能です。多くのビデオ管理システムは、カメラやその他の装置を常時モニタリングし、オフラインになった場合にはアラートを送信できます。
将来性を見据えたストレージの設計
過去10年間で、カメラは進化して解像度が向上し、より多くのストレージと帯域幅が要求されるようになりました。ストレージ容量が少なすぎると、必要な保存期間が得られません。そのため古い素材が上書きされ、映像が失われてしまいます。
システムの設計時は、ストレージの容量がその時点での目的には十分であったとしても、システムの寿命全体を視野に入れる必要があります。カメラの台数を増やす計画はありますか?カメラをより高解像度のものにアップグレードしたり、システムにインテリジェント機能を追加したりする可能性はどうでしょうか?今後可能性のあるアップグレードや拡張は、最初の設計段階で考慮することにより、円滑な実行が可能となります。
多くのカメラでは、圧縮テクノロジーが利用できます。映像コンテンツに関係なく単にビットレートを制限するのではなく、インテリジェントな方法で圧縮を実行することは、画像の有用性にとって非常に重要です。Axis' Zipstream technologyは、現場検証に必要な情報を識別し、高解像度でフルフレームレートの映像を録画して送信すると同時に、帯域幅とストレージ要件を大幅に削減できます。