プライマリストレージ
Axis監視カードでは、エッジストレージをプライマリストレージとして使用し、高解像度ビデオをカードに直接録画できます。サーバーやレコーダーを追加する必要性が減り、監視システムの総所有コストを削減できます。
事故調査や法的要件などにより、高フレームレートの映像を非常に長期間保持する必要がある場合は、サーバーベースやクラウドのストレージにデータを転送またはオフロードする必要性が生じることがあります。
Axis監視カードは、映像監視で最適なパフォーマンスを発揮するように特別に開発された産業グレードのSDカードです。通常の民生用SDカードに比べ、はるかに長く使い続けることができ、継続した保存に最適です。Axis監視カードは、映像監視のユースケース向けに検証されており、Axisヘルスモニタリング機能を備え、保証の期間/条件内であれば無料で返品が可能です。
このホワイトペーパーでは、Axis監視カードの利点と典型的な使用例をまとめています。また、なぜこの監視カードが信頼性とコスト効率に優れた選択肢なのか、その技術的背景についてもご紹介します。
SDカード(SD/SDHC/SDXCを含む)は、NAND技術をベースとした不揮発性フラッシュメモリ装置であり、携帯機器に大容量ストレージを提供するように設計されています。SDカードの寿命は、以下を含む多くの要因に左右されます。
NAND技術のタイプ(保証されるP/Eサイクル数)
カードのストレージ容量
装置の録画設定とエンコード効率
書き込み増幅率
SDカードはデータをブロック化し、各ブロックはページと呼ばれる小さなセクションに分割されます。ストレージコントローラーは、ページへの書き込みとページからの読み出しを処理しますが、一度にブロック全体を消去することしかできません。SDカードを初めて使うときは、すべてのページが空なので、データの保存は素早く簡単です。
しかし、カードの容量がいっぱいになると、コントローラーはデータをシャッフルする必要があり、ブロック全体を消去して新しい情報を入れるスペースを確保しなければなりません。このデータの書き込みと消去のプロセスは、P/Eサイクル(プログラム/消去)として知られています。このサイクルのたびに、カードのデータセルにわずかな物理的ダメージが生じ、時間が経つにつれてエラーにつながり、最終的にはブロックが使用できなくなります。
SDカードの耐久性、つまり寿命または故障するまでに対応できるP/Eサイクル数は、使用するメモリセルのタイプ、サイズ、各セルが保持するビット数に依存します。セルあたりの保存ビット数が多いカードは、一般的にP/Eサイクル数が少なくなります。
ストレージ容量の大きいSDカードを選べば、P/Eサイクル数が少ないという欠点を補うことができます。容量が増えることで、1回のサイクルが長くなり、カードの寿命が延びるからです。
NAND技術は、多くのフラッシュストレージ装置に使用されている不揮発性メモリの一種です。その名前は、デジタルエレクトロニクスの基本コンポーネントであるNOT-AND論理ゲートに由来します。
SDカードに使用されるNAND技術には、さまざまなタイプがあり、それぞれコスト、容量、耐久性が異なります。こうした違いは、各セルが何ビットの情報を保持できるかに大きく依存します。一般的なNAND技術のタイプには、SLC、MLC、TLC、QLCがあります。
SLC(シングルレベルセル)NANDは、1つのセルに0か1のどちらか1ビットしか保存できません。このシンプルさにより、迅速なデータの書き込みと取り出しが可能になり、優れたパフォーマンスと約100,000 P/Eサイクルという非常に高い耐久性を実現します。しかし、1つのセルに保存できるデータが少ないため、大容量のストレージが必要な場合は多くのコストがかかる傾向があります。
MLC(マルチレベルセル)NANDは、1つのセルに2ビットを保存できます。この容量の増加により、SLCに比べて手頃な価格で大容量のストレージを提供できます。ただし、MLCはデータエラーが発生しやすく、耐久性が約10,000 P/Eサイクルと低くなる欠点があります。
TLC(トリプルレベルセル)NANDは、1つのセルに3ビットを保存するため、MLCに比べてストレージ容量が増加し、さらにコストを削減することができます。コストと容量のバランスが良いため広く使用されており、約3,000 P/Eサイクルの耐久性を備えています。
QLC(クアッドレベルセル)NANDは、1つのセルに4ビットを保存でき、さらに容量が増加します。しかし、各セルに格納されるビット数が多いため、QLCはデータエラーの影響を受けやすくなり、耐久性も約1,000 P/Eサイクルと低くなります。
各NAND技術は、コスト、容量、耐久性の間で異なるトレードオフを提供します。どの技術を選択するかは、特定のストレージニーズにどのトレードオフが最も適しているかによって決まります。
書き込み増幅率(Write Amplification Factor:WAF)は、コンピューターストレージシステムにおいて、データ書き込みの効率を定量化するために使用される指標です。ストレージメディアに書き込まれたデータ量と、ホストシステムが書き込もうとしたデータ量の比率を表します。
理想的には、書き込み増幅率は可能な限り1に近くあるべきで、これはフラッシュユニットが追加のオーバーヘッドなしにホストシステムの要求したデータのみを書き込んでいることを示します。しかし実際には、ガベージコレクション、ウェアレベリング、オーバープロビジョニングなど、フラッシュユニットの管理と最適化に関連するさまざまな要因で、WAF値は通常1より大きくなります。再書き込みを行うためには前もってメモリを消去しなければならないため、データの再書き込みにはデータの移動が複数回必要になります。このフラッシュが動作する仕組み上、新しいデータ量が実際に必要とするよりも、はるかに多くの部分を消去し、書き換えなければなりません。この動作増加作用により、フラッシュユニットの寿命全体で必要となる書き込み回数が増加し、フラッシュユニットが高い信頼性で動作できる時間が短くなります。
書き込み増幅率が高いと、書き込み動作の回数が増加し、NANDフラッシュメモリセルの消耗を早めることになり、フラッシュユニットのパフォーマンスと寿命に悪影響を与える可能性があります。したがって、書き込み増幅を最小限に抑えることは、フラッシュユニットの設計と使用において重要な考慮事項です。
Axis監視カードは、監視カメラの典型的なメモリ書き込み動作に合わせて特別に開発された耐久性の高いmicroSDXC™カードです。民生用SDカードよりも大幅に多く書き込みや上書きができます。そのため、消耗することなく、同じカードを長期間にわたりカメラに装着することができます。Axis監視カードには5年保証が付いていますが、256 GB以上のストレージを搭載したバージョンでは、一般的に10年以上、またはカメラの通常の耐用年数まで使用し続けられることが実証されています。
Axis監視カードは、過酷な温度や環境の影響に強い産業グレードのカードです。監視カードは購入コストが高いものの、メンテナンスコストを削減でき、耐摩耗性と耐久性に優れたコスト効率の高い録画ソリューションを提供する点を考慮すると、バランスのよい選択肢です。
Axis監視カードでは、エッジストレージをプライマリストレージとして使用し、高解像度ビデオをカードに直接録画できます。サーバーやレコーダーを追加する必要性が減り、監視システムの総所有コストを削減できます。
事故調査や法的要件などにより、高フレームレートの映像を非常に長期間保持する必要がある場合は、サーバーベースやクラウドのストレージにデータを転送またはオフロードする必要性が生じることがあります。
Axis監視カードを高解像度ビデオの冗長ストレージとして使用できます。 録画の冗長エッジストレージを使用することで、中央ストレージを補完します。中央システムを利用できない場合にローカルに映像を録画したり、VMS (ビデオ管理ソフトウェア) と並行して映像を連続録画したりできます。
エッジストレージは、ネットワーク障害時やシステムのメンテナンス時に、カードに映像を一時的に保存する、フェイルオーバー録画を可能にします。ネットワーク接続が回復し、システムが正常に動作するようになると、中央のVMSは欠落したビデオクリップをカメラから自動的に取り出し、ビデオの残り部分とシームレスに結合できます。これにより、ネットワーク接続が切断された場合でも、途切れのない録画を取得できます。システムの信頼性が高まり、システムの運用が保護されます。
監視カードストレージをクラウドやサーバー上のストレージの補完として使用するハイブリッドソリューションを使用できます。これは、電車やバスなど、ネットワーク帯域幅が限られているか、帯域幅がない設置環境において特に有効です。車両が動作しているときはビデオをカードに保存し、車両がデポに停車したときに中央システムへ簡単に転送できます。ハイブリッドソリューションを使用すると、監視カード、サーバー、クラウド間でストレージを分割できるため、柔軟性の向上とコスト削減が可能になります。 クラウドで分析を実行しながら、ビデオをローカルのカードに保存することもできます。
監視カードが可能にするエッジストレージは、分析機能にとって特に有益です。エッジで実行する分析機能は非圧縮ビデオで処理し、圧縮や透過で情報が失われることはありません。これにより、分析結果がより正確になります。
分析機能の結果に対する迅速な対応が極めて重要になる場合は、従来のオンプレミスサーバーやクラウドベースのソリューションよりもエッジソリューションの方が優れています。エッジコンピューティングは、集中型システムに見られる遅延のリスクを軽減し、タイムリーな意思決定とアクションを可能にします。
エッジに分析機能を実装すると、特定のイベントが発生した場合にのみビデオ伝送が可能になり、ネットワーク帯域幅を節約できます。このような帯域幅の効率的使用は、帯域幅が限られていたり、高価であったりする場所では特に有効です。
エッジにビデオ分析を導入することで、匿名化されたデータやアラートのみをネットワーク経由で送信することも可能になります。これにより、厳格なプライバシー規制を遵守し、データプライバシーに関する懸念に対処できます。
Axis監視カードは、何年もの連続録画に耐えるように設計されています。これはTLCおよびQLC NAND技術に基づいています。こうした技術はWAF(書き込み増幅率)が低いため、P/Eサイクルの実行回数を抑えられます。
録画のデータ量(ビデオ録画の解像度やビットレートによって異なります)やストレージ容量にもよりますが、カードは5~10年以上使用できます。すなわち、通常の使用であれば、カメラの寿命が尽きるまで同じカードを使用できます。下の表は、シミュレーションに基づくカード寿命の期待値を示したものです。
カードサイズ | ビデオ解像度、ビットレート | ||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
2 MP、2.5Mb/s | 5 MP、3.5Mb/s | 8 MP、4.5Mb/s | |||||||
64GB | ~5年 | ~4年 | ~3年 | ||||||
128GB | ~10年 | ~7年 | ~5年 | ||||||
256 GB | ~20年 | ~14年 | ~11年 | ||||||
512 GB | ~26年 | ~19年 | ~15年 | ||||||
1 TB | ~53年 | ~38年 | ~29年 |
数十億時間の動作に基づく実機データにより、Axis監視カードの耐久性が確認されています。このグラフは、実際のデータとユーザー行動の推定に基づいて、寿命の累積パーセンタイルプロットを示します。これによると、Axis監視カードの大半は5年後も正常に機能していることがわかります(64 GBカードでは96.4%、128 GBカードでは97.9%、256 GBカードでは99.8%)。約85~95%のカードが10年経っても機能しています。
SDカードの保存期間は、カードがデータの消去と書き換えを開始するまでにデータを保存していた日数として定義されます。一部の地域では、証拠となるデータを30日から180日間保存する必要があるため、最大保存期間は録画ソリューションにおいて考慮すべき重要な要素です。
Axis監視カードは、録画品質に妥協することなく、高フレームレートや高解像度でも長い最大保存期間を提供します。この最大保存期間は、動体検知、アラームイベント、時間帯などに依存し、カメラがどのようなフレームレートと解像度で録画するよう設定されるかによって異なります。
例えば、128 GBストレージのAxis監視カードの最大保存期間は、カメラの設定や必要な解像度によって異なりますが、通常20日から215日以上です。小さな64 GBカードでも、最大保存期間は10日から100日以上に及びます。256 GB以上の大容量カードであれば、もちろん最大保存期間はもっと長くなります。
必要な保存期間は、カメラのWebインターフェースで設定できます。例えば、保存期間を1週間と選択した場合、クリーンアップ動作により、7日よりも古い録画はすべて削除されます。この動作は60分に1回実行されます。自動クリーンアップ動作もあり、録画できる十分な空き容量がカードにあるかどうかをチェックするために継続的に機能します。
Axis監視カードにはヘルスモニタリングが付属しており、これはカードの疲弊を追跡するデータドリブン型のサービスです。カードの使用状況に基づくこの高度なデータ監視により、カードの交換が必要になる場合には数か月前に通知を受けることができます。
Axisでは、監視カードにファイルシステムext4を使用することを推奨しています。これはジャーナリングファイルシステムであり、ジャーナル(特定のタイプのデータ構造)を使用して、変更が発生したときにその変更を記録します。システムのクラッシュや停電が発生した場合、この種のファイルシステムはより迅速にリストアでき、破損しにくいため、データを失うリスクを軽減できます。この機能は、停電することがある環境では特に重要であり、バスや電車に設置された装置だけでなく、電力供給が不安定な範囲にある装置などにも重要です。
不正アクセスから保存データを保護することは、データセキュリティを維持し、機密情報を保護する上で極めて重要です。Axisカメラには、装置内の監視カードに対して有効にできる暗号化機能があります。暗号化を適用した場合、監視カードを取り外す権限のない人は、データにアクセスできません。
この暗号化機能は以下の暗号化をサポートしています。
AES-CBC 128ビット: AXIS OS 5.80.1以降を搭載のすべてのデバイス
AES-CBC 256ビット: AXIS OS 8.40.1以降を搭載のすべてのデバイス
AES-XTS-Plain64 (AES-XTS-512 256-bit): AXIS OS 8.30.1搭載の新しいデバイス
SDカードには、監視用途を対象としない保証が付いていることがあります。一方で、Axis監視カードは監視用にカスタムメイドされており、監視用途に対して検証されています。5年保証が付いており、その期間中は不具合ユニットに対して無償でサポート、修理、交換(RMA)に対応します。