映像監視におけるAV1コーデック
概要
監視業界では、長年使用されてきたビデオ圧縮規格H.264からAV1への移行が進んでいます。この新しいコーデックは、現代の高解像度ビデオにおける帯域幅およびストレージの需要の増大により適切に対応することが可能です。複雑なライセンスによって普及が遅れたH.265とは異なり、AV1は主要なテクノロジー企業から支持されているロイヤリティフリー1の高効率な代替の規格です。
Axisは、システムオンチップARTPEC-9を搭載したカメラにAV1のサポートを組み込みました。この実装は、放送向けの機能ではなく、監視用途に関連する機能に焦点を置いています。ハードウェアコストや消費電力の増加を招くことなく、H.265と同等の圧縮効率を実現します。AV1は、Zipstreamなどの既存のAxisのテクノロジーと互換性があるほか、Togglable overlaysや静止画用のAVIF形式を含む新機能の利用を可能にします。
AV1は、H.264やH.265で使用されているブロックベースの圧縮、動き推定、変換符号化といった同じコア原理を基盤としつつ、より柔軟な予測メカニズムを導入しています。固定的なPフレームやBフレームの構造が、汎用性の高いインターフレームとより効率的なキーフレームに置き換えられます。画像の分割はより精密で、さまざまな形状やアスペクト比に分割できるスーパーブロックを使用します。
特に監視においては、グローバルモーションツールやワープモーションツールによって、エンコーダが最小限のデータでカメラの動きを処理できるようになります。スイッチフレームによって、新しい独立したキーフレームを必要とせずに解像度を変更でき、アダプティブビットレートストリーミングが可能になります。より高い内部ビット深度、多様な変換タイプ、および高度なループ内フィルターによって、技術的な品質が維持されます。これらの改良は、効率的なハードウェア実装と処理速度の向上を目的として設計されたノンバイナリ算術符号化によって支えられています。
1ユーザーは、AV1ビデオ技術に関連するライセンスの利用規約を確実に理解しておく必要があります。
はじめに
20年以上にわたり、H.264 (AVC) は監視カメラや同様のアプリケーションにおける主要なビデオ圧縮規格として、ビットレートと画質の信頼性の高いバランスを実現してきました。しかし、最新のセキュリティシステムは、いまだかつてないほどのデータ需要に直面しています。高解像度化、カメラ台数の増加、クラウドベース分析の台頭によって、ネットワーク帯域幅やストレージ容量はその限界に達しようとしています。業界の拡大に伴い、圧縮技術の進化が求められています。
かつてはH.265が当然後継の規格になると見なされていましたが、複雑なライセンスによってその採用が遅れました。それに対して、新しいAV1規格は、優れた圧縮効率に加え、幅広いITサポートと成熟したエコシステムを兼ね備えています。世界をリードするテクノロジー企業各社が支持する、オープンなロイヤリティフリーのコーデックで、現代のビデオのニーズに合わせて設計されています。
かなり前のことですが、Axisはセキュリティカメラメーカーとして初めて製品にH.264を採用し、業界をH.264の時代へと導きました。そして今、AxisはAV1を業界に導入しています。
このホワイトペーパーでは、映像監視におけるAV1の圧縮効率から、エコシステムのサポート、さらには実用的な導入について検証しています。ビットレートの比較、AV1の仕組みに関する技術的な詳細、そしてAxisデバイスを統合するための開発者向けガイドが含まれています。
新しい圧縮規格の必要性
ビデオ圧縮がなければ、ビデオのストリーミングや保存はほぼ不可能でしょう。30フレーム/秒の標準的な1080pビデオは、圧縮しない場合には1ギガビット/秒に達するほどの帯域幅を消費することになります。これほど高いビットレートでは、1 TBのディスクでも3時間足らずの録画で容量がいっぱいになります。一般的なネットワークでは、カメラ1台のビデオも転送できません。非常に高い画質を実現する8Kカメラでは、同じディスクの容量が約30分でいっぱいになります。
ビデオエンコーダは映像データを大幅に圧縮するため、監視映像の大規模なストリーミング、保存、送信が実用的になります。
H.264から改良されたH.265では、カメラの解像度向上やビットレートの低減が可能になりましたが、導入されている多数のカメラでは、依然としてネットワーク帯域幅やストレージインフラストラクチャーに高い負荷がかかっています。業界が4Kを超える解像度へと進むにつれ、圧縮率を少しずつ向上させるだけではもはや不十分になってきています。
さらに、最新のビデオエンコーダは、長年にわたって多数の企業や研究者が開発してきた圧縮技術に基づいて構築されています。そのため、H.264とH.265の両方では、その断片的で、多くの場合は予測不可能な特許ライセンスモデルが大きな課題となっていました。H.265は、複数の特許プールや個々の特許権者に直面し、メーカーやユーザーにとって不透明でコストのかかるエコシステムを構築することになりました。この複雑性が採用を妨げ、互換性が制限され、導入時に予想外のコストが発生しています。このような背景から、一部の主要ハードウェアメーカーは、既存製品からH.265のハードウェアサポートを削除し始めています。
セキュリティ業界では、優れた圧縮性能だけでなく、高い透明性、アクセスのしやすさを備え、将来に対応する基盤で動作するコーデックが求められています。
AV1の採用
AV1ビデオ圧縮規格は、オープンなロイヤリティフリーのビデオ形式の作成を目指して設立されたコンソーシアム、Alliance for Open Media (AOMedia) によって開発されました。現在、AV1はNetflixやYouTubeといった主要なストリーミングサービスプロバイダーに優先的に使用されているコーデックです。主要なデスクトップOS (Windows®、macOS®、Linux®) およびモバイルプラットフォーム (Android™、iOS®) はすべてこれに対応しています。
AV1は、AOMediaを通して、Amazon、Apple、Cisco、Google、Intel、Meta、Microsoft、Mozilla、Netflix、Nvidia、Samsungといった企業が支持するオープンスタンダードとして、力強い長期的見通しを持ち合わせています。そのオープンな性質により、他のコーデックと比較してライセンスに関する不確実性が少なく、特許コストも低くなります。
VMSの採用が進む中、Milestone、Genetec、Axisなど、業界をリードする複数のプロバイダーがすでにこれをサポートしてます。AXIS Camera Station Proをはじめとする多くのVMSソリューションのWebクライアントは、ネイティブAV1サポートのメリットを享受しています。これは、市場に出てから10年が経過してもH.265 がなかなか達成できなかったことです。成熟したオープンソースのライブラリやツールがあるため、AV1サポートは比較的簡単に追加することができます。
Axisは、ONVIF®などの業界団体と積極的に連携し、AV1に関する相互運用性を推進しています。Axisは、現在のONVIFのビデオストリーミング方式がすでにAV1と整合しているという見解を持っており、より広範囲な業界の採用が進むことで、ONVIF規格への正式な追加につながると見込んでいます。
ハードウェアの面においては、最新のCPUにはAV1デコーダの搭載が一般的になっています。2015年から2020年の間に製造されたハードウェアには、H.265には対応しているもののAV1には対応していないものもありますが、最新のデバイスではAV1ハードウェア対応が急速に進んでいることから、この課題は早急に解消されていくでしょう。たとえば、AXIS Camera Station S2216 Mk II Rack Applianceは、専用のGPUを必要とせずに16チャンネルのハードウェアAV1デコードサポートを提供する録画ソリューションです。しかし、一般的なノートパソコンのCPUでも、8K30のAV1ストリームを処理できます。また、AV1ハードウェアデコーダを搭載したスマートフォンやタブレットが増えており、モバイル再生中のバッテリーの減りや遅延に関する懸念が解消されています。
映像監視におけるAV1のメリット
H.264やH.265と同様に、AV1は元々、監視を想定して設計されたものではありませんでした。ですが、これらすべての規格の基盤となる圧縮方式は適応性が高く、Axis ARTPEC-9システムオンチップのAV1実装は、監視向けに最適化されています。
一定の量の映像データにおいて、AV1が実現するビットレートの低減はストレージ要件の削減に直接つながり、既存のストレージインフラストラクチャーの寿命や保持期間の延長が可能になります。さらに、ネットワーク帯域幅の使用量の低減によって、費用のかかるネットワークのアップグレードを先送りしたり、排除したりすることが可能です。これにより、全体的に監視システムの総所有コスト (TCO) が削減されます。
また、クラウドベースの映像監視が急速に拡大しており、圧縮技術への要求が高まっています。数百または数千台のカメラからクラウドストレージや分析プラットフォームにビデオに送信するためには、インターネット経由で低ビットレートで高画質を実現できるコーデックが必要です。AV1はインターネットでビデオを送信するために設計され、ロイヤリティフリーのライセンスモデルを採用しているため、さまざまなブラウザ、プラットフォーム、クラウドサービスでネイティブサポートされています。こうした幅広いサポートにより、クラウド統合が簡素化され、クラウド環境でこれまでH.265の大規模な導入を困難にしていた互換性の障壁が取り除かれます。
AxisのAV1実装
Axisは、カメラにAV1のサポートを初めて実装したメーカーとして、セキュリティ業界をリードしています。これは、映像監視業界の発展、そして顧客の実用性の向上への取り組みを反映しています。
このAV1実装は、セキュリティアプリケーションにおけるコーデックの基本的な強みにフォーカスし、24時間365日の連続録画、AI分析機能の統合、監視システムの相互運用性といった具体的な需要に合わせて設計されています。監視と関連のない、放送中心の機能は意図的に除外されています。代わりに、コーデックの柔軟なブロック分割、高度なイントラ予測およびインター予測、洗練されたフィルタリングに基づくコアとなる圧縮機能が採用されています。
Axisのカメラでは、AV1のサポートはコスト要因にはなりません。カメラに組み込まれたARTPECアーキテクチャにより、新しいコーデックの効率的な実装と統合が可能なためです。顧客は、追加の費用をかけずにAV1の効率性のメリットを最大限に享受できます。ARTPEC-9は、カメラにCPU負荷や消費電力を追加することなく、オーバーヘッドを最小限に抑えつつ、完全なリアルタイムAV1エンコーダ性能を実現します。
Zipstream、署名付きビデオ、ビットレート制御アルゴリズム、Zipstreamプロファイルを含む、H.264およびH.265で利用可能なAxisのすべての機能は展開当初からサポートされています。AV1は、AXIS Camera StationおよびAXIS Site Designerでもフルサポートされています。
ZipstreamおよびAV1: 組み合わせるとさらに効果的
AV1、H.264、H.265はいずれも、多くの産業分野での幅広い使用を目的に開発されました。これらの規格はエンコーダではなくデコーダに焦点を置いているため、エンコーダの段階的な改良は独立して進めることができます。こうした背景から、Axisは基盤となるビデオコーデックと連携して動作するように設計され、監視に特化して最適化したZipstreamを開発することができました。このソリューションは、ビデオのフォレンジックの価値を守りながら、帯域幅とストレージを少なくとも50%削減します。
Zipstreamは、ビデオのシーンをリアルタイムで分析し、人物の顔や車両のナンバープレートなどの対象範囲を動的に識別し、その詳細を保持しながら重要度の低い領域をより積極的に圧縮します。AV1に本来備わった、複雑な移動する物体の優れた圧縮性能との組み合わせによって、最も重要な場面で高品質のフォレンジック詳細が維持されつつ、全体的なビットレートは大幅に低減されます。
AV1による新しい機能
初のARTPEC実装からすでに、AV1はH.265の第3世代実装と同等の圧縮効率を一貫して示しています。また、AV1は、まったく新しい機能を実現するより高度なツールセットを提供します。Axisカメラでまもなく利用可能になる機能には、Togglable overlaysや静止画用のAVIF形式などが含まれます。
Togglable overlays
Togglable overlaysは、ライブ配信中と録画再生中の両方で、ユーザーがビデオのグラフィック要素の表示・非表示を切り替えることができる機能です。これらの要素には、境界ボックス、テキスト注釈、およびMQTTデータの可視化が含まれます。このオーバーレイは、ビデオの専用レイヤーに恒久的に埋め込まれているため、表示されていなくても常に存在しています。つまり、オペレーターはオーバーレイ情報が不要な場合、埋め込まれたデータを失うことなく、クリーンなビデオを表示するように選択できます。Togglable overlaysは、より高度なAV1のアーキテクチャによって、H.264やH.265では対応できないまったく新しい機能が実現することを示しています。
AVIF (AV1画像形式)
AVIFは、AV1ビデオと同じ圧縮技術に基づく最新の静止画像形式です。ビデオにおいてAV1がH.264およびH.265から改良されたように、AVIFはJPEGなどの旧式の画像形式と比較して大幅に優れた圧縮効率を実現しながら高画質を維持します。映像監視においては、アラートや証拠として使用されるスナップショットなど、カメラからキャプチャーされた静止画像をより効率的に保存、送信できることを意味します。また、AVIFは広色域やハイダイナミックレンジにも対応しており、監視現場でよく見られる厳しい照明条件でもより詳細な情報を保持できます。
AV1、H.264およびH.265のビットレート効率
ARTPEC-9に内蔵されているビデオエンコーダは、MJPEG、H.264、H.265、またはAV1を使用してビデオを圧縮することが可能です。
MJPEGはビットレート効率が極めて低いものの、使いやすい形式であるため、30年が経過した今でも一部のアプリケーションで使用されています。JPEGのアルゴリズムは非常に高いビットレートを生成するため、カメラの組み込みソフトウェアがMJPEGの総スループットを制限します。
H.264、H.265、およびAV1は、MJPEGに比べてベースビットレートがはるかに低く、ARTPEC-9はこれら3つのエンコーダすべてでストリームを配信できます。用途に応じて、デバイスの性能の限界の範囲内で、解像度、フレームレート、エンコード設定を自由に組み合わせることができます。ARTPEC-9は、最高のメモリ設定では、60フレーム/秒で4Kストリームを配信し、総スループットは540 MP/sに達します。詳細については、ホワイトペーパー「ARTPEC-9製品のストリーミング性能」をお読みください。
新しいシーンからのビットレートは予測が困難です。これは、ビデオコーデックが複雑であり、シーンごとにビットレート効率が大きく異なるためです。より高度なコーデックほど、ばらつきが大きくなる傾向があります。H.264、H.265、およびAV1を使用する全体のインストールにおけるビットレートやストレージ要件を推定するために、AXIS Site Designer (axis.com/support/tools/axis-site-designer) を使用することができます。
シーンの例
選択した監視シーンを撮影し、同じカメラで複数のストリームを同時に配信したAxisのテストは、AV1のビットレートは通常、H.265のビットレートと同じ程度であるのに対し、H.264のビットレートは著しく高いことを示しています。
| シーン | H.264 (メガビット/秒) | H.265 (メガビット/秒) | AV1 (メガビット/秒) | AV1 vs H.264 | AV1 vs H.265 |
|---|---|---|---|---|---|
| 混雑した市街地監視 | 23.558 | 16.842 | 15.862 | -33% | -5.8% |
| 交通監視 | 20.525 | 15.773 | 15.660 | -24% | -0.72% |
| 日中の市街地監視 | 16.211 | 13.249 | 13.244 | -18% | -0.04% |
| 夜間の市街地監視 | 4.7725 | 3.5333 | 3.3637 | -30% | -4.8% |

AV1のビットレート: H.264と比較して-33%、H.265と比較して-5.8%。

AV1のビットレート: H.264と比較して-24%、H.265と比較して-0.72%。

AV1のビットレート: H.264と比較して-18%、H.265と比較して-0.04%。

AV1のビットレート: H.264と比較して-30%、H.265と比較して-4.8%。
コーデックの比較: フォレンジックビデオの画質とビットレートの関係
ビデオの画質が異なる場合、ビットレートを比較しても意味がありません。あいにく、画質を自動的に測定する確実な方法はなく、手動による評価には非常に時間がかかります。
2台のカメラを使用する場合は、次のいずれかを行う必要があります。
両方のカメラのビットレートが同じになるように設定し、フレームを順に見て画像の乱れがないか確認し、ビデオ品質を比較します。
(時間がかかり、確認は簡単ではありませんが、) 両方のカメラの画質が同じになるように調整した後、ビットレートを比較します。
しかし、2台のカメラを並べて設置しても、視野はだいたい同じにしかなりません。このようなテスト環境では、ビットレートのばらつきが最大20%に達することがあり、意味のある比較を行うにはあまりにも大きすぎます。撮影した内容はだいたい同じにしかならないという事実を補完するために、さまざまなシーンを撮影する必要があるでしょう。
2つのコーデックを公平に比較するには、まったく同じビデオを両方のコーデックでエンコードする必要があります。ビデオはフレームごとに完全に同じである必要があります。つまり、すべてのカメラの設定、視野、シャープネス、およびシーンの内容が一致していなければなりません。これをライブビューから実現する唯一の方法は、同じカメラで両方のストリームを同時にエンコードすることです。最近のARTPECチップは、これを処理する十分な処理能力を備えています。これらは2つのストリームを並行してエンコードし、両方をSDカードに保存するか、VMSにストリーミングすることができます。推奨される方法は、ストリームプロファイルとトリガーをあらかじめ設定したカメラ1台を使用することです。ここで紹介したビットレート効率の比較もこの方法で行われました。
AV1の技術的基盤
AV1への移行により新たな効率性がもたらされますが、これは既存の規格の改良として理解するのが最も適切です。AV1は、H.264やH.265で使用されているブロックベースの圧縮、動きの推定、変換符号化という同じコア原則に基づいています。また、AV1では一連の高度なツールや予測メカニズムも導入されています。
高度なフレームタイプと予測
各コーデックの主な違いは、ピクセルの動きの予測においてエンコーダが持つ柔軟性の度合いです。
H.264およびH.265で確立されたI-P-Bフレームワーク
H.264およびH.265は、インターフレーム圧縮を実現するために、3つの主要な圧縮フレームタイプからなる標準的な階層構造を採用しています。これらのフレームの連続が、Group Of Pictures (GOP) を構成します。通常、Iフレームから始まり、その後にPフレームとBフレームが混在して続きます。エンコーダは、Iフレームの後のフレームタイプを自由に選択できます。
Iフレーム (Intra Coded Frame) は、他のフレームを参照することなく、完全な画像を格納する独立したアンカーフレームです。通常、これらはデコード、シーク、およびエラー回復のためのランダムアクセスポイントを提供します。Iフレームは、同じフレーム内の隣接ピクセルからの空間予測のみを使用する、最も大きなフレームタイプです。H.265は、H.264規格よりも多くの方向モードと大きな予測ブロックサイズを導入することで、イントラ予測機能を強化しました。
Pフレームは、1つまたは2つの直前のIフレームまたはPフレームとの差分を予測することでエンコードされる予測フレームです。これらは、(ピクセルのブロックの移動を示す) 動きベクトルと残差データ (予測と実際の画像との差分) のみを格納しているため、Iフレームよりも大幅にサイズが小さくなっています。Pフレームは、フレーム間の動きを効率的に表示しますが、過去の参照に依存しているため、複雑な動きや大幅なシーンの変化がある場合、予測精度が低下する可能性があります。
Bフレームは、符号化効率を最大化するために、過去と未来のデータの両方を参照する双方向予測フレームです。これらは、2つの方向からの情報を活用し、画像の乱れが他のフレームに広がるのを防ぐ階層構造を使用することで、最高の圧縮率を実現します。Bフレームは滑らかな動きに理想的ですが、未来のフレームに依存するため、デコードの遅延が生じます。H.265では、柔軟な参照リストと適応動きベクトル予測により、Bフレームの性能が向上しました。
インター予測に対するAV1の柔軟なアプローチ
AV1は、データ量を削減するために他のフレームを参照するという概念を維持しつつ、固定的なPフレームやBフレームのラベルを汎用性の高いインターフレーム構造に置き換えています。
キーフレームは、独立してデコードできる自己完結型の画像を提供し、Iフレームと同じ基本的な役割を果たします。これらはなお、再生の開始、シーク、エラー耐性に非常に重要です。強化されたイントラ予測により、AV1の「完全な」キーフレームでも、旧式のコーデックのIフレームより効率的にエンコードされ、画質を維持しつつファイルサイズが削減されます。具体的なイントラ予測ツールとして、方向性モードの増加、Paethプレディクター、パレットプレディクター、Chroma from Lumaなどが挙げられます。
方向性モード数の増加により、近隣ピクセルからピクセル値を予測する角度数がH.265の35とH.264の9に対し、56に範囲が拡大しています。
Paethプレディクターはグラデーションに基づいて方向を選択するのに対し、パレットプレディクターはコンピューターグラフィックスなど、限られたカラーセットを使用してコンテンツを効率的に管理します。
Chroma from Luma (CfL) は、輝度データ (luma) から色の情報 (chroma) を予測するイントラ予測手法です。
イントラフレームは、キーフレーム間の動きと変化を表します。これらは基本的にPフレームと類似していますが、多方向基準構造を使用することで、PフレームとBフレームの両方の能力を上回っています。 1つの基準を持つPフレームや、最大2つの基準を持つBフレームとは異なり、AV1のイントラフレームは、任意のブロックについて、以前にデコードされた最大6つの基準を持つことができます。これにより、エンコーダは複数の時間的距離にわたって最も一致するものを見つけ出し、より正確な予測と残差の縮小を実現することができます。
高度な符号化ツールセット
AV1では、ブロックの処理方法を改善する複数の高度なツールが導入されています。
高度なブロック分割。 AV1は128×128のスーパーブロックに対応していますが、このコーデックの主な強みはブロック分割の柔軟性です。128×128ピクセルまたは64×64ピクセルのスーパーブロックは、T字型の分割や4:1または1:4のアスペクト比など、非常に柔軟なパターンに分割でき、最小で4×4ピクセルまで分割可能です。これにより、エンコーダは、H.264やH.265の固定構造よりも、詳細部分の周りで画像をより正確に分割できます。
複合予測。 この機能により、1つのブロックに対して2つの異なる予測をブレンドすることができます。インター/インター複合は、異なる基準フレームまたは動きベクトルを組み合わせ、インター/イントラ複合は、インター予測とイントラ予測をブレンドして物体の境界を鮮明にします。ウェッジ分割予測などのツールによって、ブレンドした予測の間に滑らかな斜めのトランジションラインを作成し、ブロック状の画像の乱れを回避し、移動する物体を正確に分離します。
運用効率化機能
AV1ツールの中には、カメラの動きやストリーミングのパフォーマンスを特に重視して設計されたものがあります。
グローバルモーションおよびワープモーション。AV1は、広い範囲またはフレーム全体に1つのワーピングパパラメーターセットを適用することで、パン、チルト、ズームなどのカメラの動きを管理します。これにより、カメラが動いている間、ブロックごとに個々の動きベクトルをエンコードする必要がないため、監視映像において非常に効率的です。
スイッチフレーム (Sフレーム)。 これらは、アダプティブビットレートストリーム用に設計された特殊なインターフレームです。これらはより高解像度の基準フレームから予測できます。これによって、デコーダは完全なIフレームを必要とせずに低解像度のストリームに切り替えることができ、変動するネットワーク条件に合わせて最適化されます。
処理とフィルタリング
AV1では、最終的な画質とエンコード効率を向上させる数学的および後処理に関する複数の改良点が導入されています。
内部精度の向上。 AV1は1サンプルあたり10ビットまたは12ビットで内部処理を行い、丸め誤差を低減し、詳細部分を忠実に再現します。特にハイダイナミックレンジのシナリオにおいて有効です。
変換。AV1は、H.265よりはるかに広範囲の変換に対応します。残差パターンを周波数領域にマッピングするために、矩形DCT (離散コサイン変換) や非対称DST (離散サイン変換) など、さまざまなタイプの変換を使用します。このコーデックは、残差データの特性により適切に対応するために、水平方向および垂直方向の異なる1次元変換を組み合わせることができます。
ループ内フィルタリング。AV1は、制約付き方向性強調フィルター (CDEF) を使用して、主要な輪郭に沿って発生する画像の乱れ (リンギング) を滑らかにします。また、ウィーナーループ復元フィルターを採用し、フレーム全体のぼけによる画像の乱れを低減します。
フィルム粒子の合成。 AV1は、ランダムノイズを非効率的にエンコードするのではなく、デコーダ側で粒子を合成するパラメーターを送信します。これにより、テクスチャを維持しつつ、ビットレートを大幅に節約することができます。この機能は、監視向けではなく、映画や放送向けに設計されています。
ノンバイナリ算術符号化。 AV1は、H.264やH.265で使用されているバイナリCABACシステムより効率が高く、ハードウェアへの実装が高速なノンバイナリ算術符号化方式を採用しています。
技術統合ガイド
AxisデバイスにおけるAV1ビデオのストリーミングとデコード
Axisは、 ARTPEC-9システムオンチップ (SoC) 以降を搭載したデバイスにおいて、AV1ビデオエンコーディング規格に対応しています。この実装はAV1規格に完全に準拠し、幅広いプラットフォームとの互換性を確保するため、8ビットの色深度を持つメインプロファイルに対応しています。
Axisのストリーミングライブラリでは、RTSP/RTP経由でのAV1ビデオのストリーミングに対応しています。この実装はC#で記述されており、Axisデバイスとの通信にはVAPIXを使用します。
パフォーマンスの高い再生を実現するため、視聴プラットフォームに基づいて特定のコードストラテジーが採用されています。デスクトップアプリケーションでは、dav1dデコーダライブラリを有効にした状態でFFmpegが使用されます。Webクライアントは、最新のブラウザに内蔵されているAV1ビデオのサポートを利用します。
iOSおよびAndroid向けに開発されたモバイルアプリケーション向けに、AxisのAV1実装は柔軟性とパフォーマンスのバランスを両立させています。ストリームからビデオフレームを取得するために、FFmpegが使用されます。実際のデコードは、モバイルプラットフォーム自体が行います。ネイティブのビデオプレーヤーは、フレームのレンダリングを処理し、スムーズな再生と効率的な電力消費を実現します。
開発者が考慮すべき重要なポイント
VAPIX® APIは、AXIS OSとのカスタム統合に必要なツールとドキュメントを提供しています。当社のデバイスからAV1エンコードされたビデオをインテグレーションやソリューションに統合する方法については、Axisの開発者向けドキュメント (https://developer.axis.com/video-streaming-and-recording/av1/how-to-guides/integration-guide-av1/) をご覧ください。
AV1対応のAxisデバイスとの統合前に、お使いのシステムのハードウェアおよびソフトウェアがAV1ビデオのデコードに対応していることを確認してください。ハードウェアサポートがない場合や、デコーダライブラリが最適化されていない場合、AV1ビデオの処理にH.265より多くのCPUリソースが必要になる場合があります。 マルチスレッドやGPUアクセラレーションなどの手法を活用して、アプリケーションのパフォーマンスを向上させることを検討してください。
AV1ビデオ技術の使用には、ライセンス利用規約が適用されます。お客様は、AV1ビデオ技術の使用に必要な特許やその他の知的財産権について、サードパーティから必要なライセンスを取得する責任があります。
AV1ストリームの取得
標準プロトコル
開発者は、RTSP/RTPやHTTPなどの標準プロトコルを使用し、コーデック、解像度、フレームレート、ビットレートなどのストリーミングパラメーターを受け付ける特定のURLにアクセスすることで、AV1ストリームをリクエストすることができます。
WebRTC
また、WebRTCを使用してAV1ストリームを取得することも可能です。そのために、ビデオストリームを表示するためのWebRTCクライアントアプリケーション、初期接続を設定するためのシグナリングサーバー1台以上、およびNATトラバーサル用のSTUNまたはTURNサーバーを使用する必要があります。
WebRTCクライアントアプリケーションの場合、最も一般的で柔軟性の高いオプションは、最新のWebブラウザを使用し、JavaScriptを使用してWebページを開発し、WebRTC API (RTCPeerConnectionやgetUserMediaなど) と連携させることです。デスクトップやモバイルの場合、代わりにWebRTCライブラリ (LibWebRTCなど) を使用してカスタムアプリケーションを開発し、ビデオストリームを統合することも可能です。
Axis Cloud Connectソリューションを使用していない場合は、独自のシグナリングサーバーをホストする必要があります。これはコーディネーターとして機能し、Axisカメラ (WebRTCエンドポイントの1つ) とクライアント (もう1つのエンドポイント) が直接接続を確立するために必要な情報をやり取りできるようにします。これには以下が含まれます。
SDP (セッション記述プロトコル) のオファー/アンサー。これらは、各ピアのメディア機能や設定を記述したものです。
ICE (双方向接続性確立) 候補。これらは、各ピアに到達できる可能性のあるネットワークアドレス (IPアドレスとポートの組み合わせ) です。
さまざまなバックエンド技術 (Node.js with WebSockets、Python、Java、Goなど) を用いてシグナリングサーバーを構築し、これらの通信を処理することができます。
カメラやクライアントコンピューターを含むほとんどのデバイスは、NAT (ネットワークアドレス変換) ルーターやファイアウォールの内側にあります。これにより、それらの内部IPアドレスは外部からルーティング不可能なため、ピアツーピアでの直接接続が困難になります。STUN (Session Traversal Utilities for NAT) サーバーは、ピアがそれらのパブリックIPアドレスやポートマッピングを特定するのに役立ちます。これは比較的軽量です。パブリックSTUNサーバーを利用することも、独自のサーバーをホストすることも可能です。
STUNでは (制限の厳しい対称型NATや企業のファイアウォールなどによって) 直接接続を十分に確立できない場合、TURN (Traversal Using Relays around NAT) サーバーが必要です。TURNはリレーとして、ピア間のメディアトラフィックを転送します。これによって、より多くの帯域幅が消費され、わずかな遅延が生じますが、接続性は保証されます。独自のTURNサーバーをホストする必要がある場合があります。
AV1ストリームのデコードとレンダリング
アプリケーションでAV1ビデオストリームをデコードするには、広く利用されているオープンソースのマルチメディアフレームワークであるFFmpegを使用することができます。AV1ビデオストリームをレンダリングするために、最新のブラウザ、メディアプレーヤー、ビデオハードウェア、または公開されているフレームワークを使用できます。
商標の帰属
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