Axisカウントソリューション

6月, 2025

はじめに

カウントソリューションは、さまざまな業種や公共の場で広く活用されています。来場者に関する統計データを提供することで、企業は傾向を分析し、運用の最適化を図ることが可能になります。

このホワイトペーパーでは、ビデオベースのカウント分析機能の基本的な仕組みについて解説します。カウント精度に影響を与える要因や、最適な設置を実現するために、システムインテグレーターやエンドユーザーが取るべき対策に焦点を当てています。また、Axisのポートフォリオに含まれるカウントソリューションと、その代表的なユースケースについてもご紹介します。

背景

物体カウントは、さまざまな業界に、それぞれの施設内の場所からカウントデータを取得して分析する手段を提供します。

来場者数や車両数を正確にカウントすることは、さまざまな組織にとって、運営の効率化や顧客体験の向上、そしてデータに基づく判断を行う上で不可欠です。例えば小売業では、店舗ごと、あるいは店舗内のエリアごとの来客数を把握することで、顧客回転率の算出、キャンペーンの効果測定、最適な人員配置に役立てることができます。同様に、博物館や図書館では、政府からの助成金を確保するために来館者数の統計が求められることがあります。スポーツ施設やイベント会社では、多くの場合、チケット価格の最適化を目的として来場者数を監視する必要があります。一方、効果的な混雑管理のために通行量の把握が必要な組織もあります。

AXIS Object Analyticsは、人や車両の通行量に関する信頼性の高いデータを提供することで、こうした多様なニーズに応えます。以下のような、さまざまなシナリオに適用することができます。

  • 小売店舗、博物館、図書館などにおける、人員配置、マーケティング、運営を最適化するための来場者数の監視。

  • 駐車場、交通監視機関、スマートシティにおける、都市計画の策定、渋滞管理、駐車スペースの最適化を目的とした、車両の動きと交通の流れの追跡。

  • 都市計画担当者、行政官、利害関係者が、インフラ開発やリソース配分に関して情報に基づいた判断を下せるよう、リアルタイムデータを提供することを目的とした、交通車両のカウント。

  • 駐車場におけるビジネスパフォーマンスの最適化を目的とした、充電ステーションの利用状況のデータ分析と、それに基づく容量調整。

  • 通行量の多いエリアにおけるセキュリティ強化を目的とした、ピーク時間帯の把握とリソースの効果的な配分。

AXIS Object Analyticsを活用することで、組織は来場者や車両の動きに関する有益な洞察を得ることができ、それにより運用効率の向上、顧客体験の改善、データに基づく意思決定が可能になります。また、AXIS Object Analyticsを使用すると、1台のカメラで複数の目的に同時に対応できるため、組織はセキュリティ監視と、人数計測などのビジネスインテリジェンスアプリケーションの両方にカメラを活用できます。これにより、投資利益率の最大化と運用効率の向上を図ることが可能になります。

来場者と車両の両方を正確にカウントすることは、経済的に大きな影響を及ぼす可能性のある重要な要素であり、信頼性の高いカウントアルゴリズムと、カメラの動作条件を最適化する適切な設置が不可欠です。

カメラによる物体カウントは、プライバシーとデータセキュリティに関する懸念を引き起こす可能性があります。AXIS Object Analyticsには、ビデオストリームを無効化し、数値カウントデータのみを保存する機能が備わっています。また、カメラが対応していれば、プライバシーマスクやAXIS Live Privacy Shieldなどのプライバシー保護オプションを利用することも可能です。

Axisカウントソリューション

AXIS Object Analyticsは、「クロスラインカウント」と「エリアの混雑状況」という2つのカウントシナリオを提供し、適切な場所に正しく設置することで信頼性の高い結果を得られます。

  • Crossline counting (クロスラインカウント): 仮想ラインを特定の方向に横切る物体をカウントします。クロスラインカウントでは、イベントを設定してデータを収集することもできます。

    クロスラインカウントは、特定の方向への物体の動きを追跡する必要があるシナリオに適しており、交通の流れを分析したり、来訪者の動向を把握したりすることができます。

  • エリアの混雑状況: 定義された範囲内の物体の数をカウントします。定義された範囲とは、カメラの視野の中で監視が必要な特定のエリアを指します。

    「エリアの混雑状況」は、推定混雑率を把握し、混雑状況を管理する必要があるシナリオに適しています。このデータは、建物や施設におけるスペースの利用状況を分析する際にも役立ちます。

  • 「クロスラインカウント」と「エリアの混雑状況」の両方を使用して、ユーザー定義のカウント閾値に基づくイベントをトリガーできます。

カウントの仕組み

人物や車両を正確にカウントするためには、検知対象の物体をはっきりと捉えられる位置にカメラを設置します。権限のあるユーザーは、あらゆるデバイスや場所から、リアルタイムデータと履歴データを確認することができます。このシステムは、既存のIPネットワークに簡単に組み込むことができます。

「クロスラインカウント」は、ユーザーが設定した特定の方向に仮想ラインを横切る物体を追跡します。物体は、ラインを横切る前と後の両方で、カメラにはっきりと映っている必要があります。

「エリアの混雑状況」は、任意の時点でユーザーが設定した範囲内に存在する物体の数を推定し、移動中の物体と静止している物体の両方を検知します。 

魚眼カメラで上方から捉えた移動中の物体の360°ビュー。

クロスラインカウント vs, エリアの混雑状況

使用するカウントシナリオのタイプは、具体的なニーズに応じて決まります。どちらのソリューションも有益な洞察を提供しますが、「クロスラインカウント」と「エリアの混雑状況」の主な違いは、その適用される場面にあります。「クロスラインカウント」は、一般的な交通分析で使用されることが多く、さまざまな環境において特定の方向にラインを横切る物体をカウントします。一方、「エリアの混雑状況」は、定義された範囲内で視認可能な移動物体および静止物体の両方を検知してカウントします。

設置環境に適したカメラの選択

人や車両をカウントするためのカメラを選択して設置する前に、考慮すべき要素がいくつかあります。カメラは、斜め方向または真下に向けて設置することができます。真下に向けて設置する場合はパノラマ魚眼カメラが必要ですが、斜め方向に設置する場合は、AXIS Object Analyticsに対応していれば、どのAxisカメラでも使用できます。

対応カメラの一覧については、対応製品をご覧ください。

適切な設置方法の選択は、シーンのレイアウト、障害物の有無、設置高さ、物体の視認性など、いくつかの要因に左右されます。

設置角度を検討する際は、撮影シーンの複雑性を考慮する必要があります。斜め方向への設置では、物体の特徴をより明確に把握できるため、検知、追跡、カウントがしやすくなります。ただし、障害物によって物体が頻繁に遮られるエリアでは、真下に向けた設置の方が適しています。斜め方向からの映像では、遮蔽のリスクが高まるため、物体が部分的または完全に視界から隠れ、検知漏れやカウント精度の低下につながる可能性があります。対照的に、真下に向けた設置では、頭部と肩に焦点を当てて検知するため、遮蔽のリスクが低減され、精度が向上します。

設置高さを検討する上で考慮すべき最も重要な要素は、物体の視認性です。選択した高さにカメラを設置したときに、カウント対象の物体がはっきりと見える必要があります。

屋内でカウントを行う場合、真下に向けて設置する魚眼カメラは2~4mの高さに設置する必要があります。一方、斜め向きの設置では、対象物がはっきりと見える限り、高さと角度はより柔軟に調整できます。斜め方向に向けて設置する場合、設置高さは選択したカメラのズーム機能によって決まるため、高さの制限はありません。

データの可視化と利用

AXIS Object Analyticsはエッジベースで動作するため、各カメラ上で直接データを分析・処理し、他のハードウェアを必要としません。エッジベースのカウントには、費用対効果の高さに加え、他にも多くの利点があります。現場においては、スペースを取り、メンテナンスやサポートを必要とする機器が少なくなります。また、データをエッジに保存することで、必要な帯域幅も削減されます。

AXIS Object Analyticsのカウントデータには、以下の方法でアクセスできます。

  • カウントオーバーレイ: カウントオーバーレイを使用すると、データがビデオストリームに埋め込まれ、映像上で確認できます。このデータは更新できないため、コンセプト実証デモなどの短期的な用途にのみ使用する必要があります。

  • ダウンロード: この方法では、AXIS Object Analyticsアプリケーションを使用してカウントデータをエクスポートできます。カメラの台数が少ない小規模なシステムに推奨されます。操作も簡単で、CSV形式のデータにアクセスし、それをMicrosoft® Excelにエクスポートして簡単に管理できます。APIの詳細については、AXIS Object Analytics APIを参照してください。さまざまなビジネスインテリジェンス (BI) システムとシームレスに接続できるAPIを活用した高度な統合に適しています。また、カメラに直接アクセスする必要があります。

  • MQTT: データのプッシュおよび統合を行うためのプロトコルです。カメラからのリアルタイムデータを、BIプラットフォームなどの外部システムへプッシュする際に役立ちます。

  • AXIS Data Insights Dashboard: グラフやチャートによるデータの視覚化を効率的に行うことができます。複数のカメラのカウントを1つに統合し、そのデータをAXIS Data Insights Dashboardで視覚化できます。ダッシュボードを使用することで、複数のカメラのデータをより包括的に把握し、視覚的に確認できます。

物体カウントデータは、自動データプッシュ (1) を介して、MQTTメッセージブローカー (2) またはAXIS Camera Station (3) に統合できます。収集したデータはAXIS Data Insights Dashboard (4) などのレポーティングプラットフォームを使用して視覚化できます。また、サードパーティ製アプリケーションは、内蔵API (5) を介してデバイスから直接データを要求することもできます。

精度

カウント分析機能の精度は複雑な問題であり、一般的な精度のパーセンテージで示すことはできず、また示すべきでもありません。設置環境はそれぞれ異なり、精度は環境要因の複雑な組み合わせに左右されるため、他の現場で同じ結果を再現することはできません。

精度は、以下の要因に応じて異なります。

  • カメラの配置とアングル

  • 照明の条件

  • 物体の可視性

  • 撮影シーンの複雑さ

一般的に、正確なカウント結果を得るには、対象物をできるだけはっきりと捉えられる位置にカメラを設置することが重要です。最適な分析結果を得るには、AXIS Object Analytics ユーザーマニュアルをご覧ください。

一般的な正確性に関する記述について

Axisでは、全体的な精度の数値は提示していません。そのような数値は実験室のテスト環境においてのみ正確であり、実際の設置環境によって必ず異なります。例えば「精度97%」といった数値を示すためには、環境や設置条件に依存する多くの要素を推定する必要があります。Axisでは、誤解を招くような精度の表示を避けるために、セールスエンジニアの専門知識やオンラインツールの提供、設置環境に関する推奨事項の提示に注力し、お客様が信頼性の高い計測結果を得られる最適な条件を整えられるよう支援しています。

環境要因

最適な結果を得るための設置に関する考慮事項:

  • 仮想ライン:正確な結果を得るためには、物体が仮想ラインを横断する前と後の両方をカメラがはっきりと捉えられる場所に仮想ラインを設置することをお勧めします。仮想ラインはカメラの真下に配置する必要はありません。視野角 (FoV) の外側を避け、中心から少しずらした位置に配置することで、物体を捉えやすくなります。

  • エリアの混雑状況:最適な結果を得るためには、遮蔽のリスクを最小限に抑えられる対象範囲を定義して、混雑率を推定することをお勧めします。

インストール後のシステムの精度テスト

現地で直接、またはライブ映像や録画映像を使用して一定期間手動でカウントを行い、分析機能による同期間のカウント結果と比較することで、精度をテストできます。ただし、特に多くの人が同時に出入りするような混雑した状況では、手動カウントの精度は100%には遠く及ばないことに注意する必要があります。

手動カウントによって精度を評価する場合は、まずは入場者のみのカウント精度を測定することが推奨されます。カウント装置に表示されている合計人数を記録し、すぐに手動で入場者を数え始め、200人に達するまで続けます。終了後ただちにカウント装置の合計人数を記録し、その数値と手動でカウントした人数との差を計算します。これが#INとなります。誤差の割合は(#IN - 200)÷2という式で求められます。その後、退場者についても同様の手順を繰り返します。

もう一つの方法は、一定期間のINからOUTを引いた値を比較することです。この方法は、入退場が特定の時間に行われると予想される場合に適用できます。簡単な測定方法としては、1日の間に施設に出入りする人の総数を比較する方法があります。入場者数(IN)と退場者数(OUT)の偏差を計算することで、各月の日毎の精度値を得ることができます。一般的な計算式は(IN-OUT)÷(IN+OUT)x200で、これは誤差の割合を示します。この方法は、入口と出口が同じ場所にある設置環境で推奨されます。施設に複数の入口がある場合は、複雑になる可能性があります。その場合、すべての出入り口でカウントを行い、その合計数と比較する必要があります。特定のセンサーユニット単体の精度を測定することはできません。

導入支援

ウェブマニュアルには、最適なカウント精度を実現するためのAXIS Object Analyticsのインストール方法が記載されています。axis.comの製品ページには、以下のような他のリソースへのリンクも記載されています。

  • AXIS Site Designer:設置要件、カメラの配置計画、検知距離などを表示します。AXIS Site Designerを使用することで、ニーズに合ったAxis製品を選定し、その製品のカバー範囲を視覚的に確認できます。

  • 設置および設定に関するビデオ。

  • AXIS Object Analyticsユーザーマニュアル