動体ブレ補正

12月, 2023

概要

監視カメラに揺れや振動が起きると、映像出力がぼやける場合があります。風の強い場所や交通量の多い道路付近に設置された高いポールにカメラが取り付けられている場合は、ポールが揺れる可能性が高いため、特にこの現象が発生する確率が高くなります。望遠レンズや焦点距離の長いレンズを搭載したカメラの場合は、ズームレベルに応じて振動の影響を大きく受けるため、画質にも影響が出やすくなります。振動という要素により、取り付けや設置の選択肢が制限されるだけでなく、帯域幅やストレージの要件およびプライバシーマスキングの精度にも悪影響がもたらされます。

リアルタイムの動体ブレ補正技術により、ビデオ出力における振動の影響を軽減し、画像の品質を維持することができます。

通常、光学動体ブレ補正では、ジャイロスコープや加速度計を使用して、カメラの振動が検知および測定されます。この方式は焦点距離が長い場合に特に有用で、低光量の場所でも良好に機能します。光学動体ブレ補正の主な欠点は高額なことです。

電子動体ブレ補正の場合は、カメラの動きをモデル化するアルゴリズムにより、画像が補正されます。この方式のほうがコスト効率は高いのですが、カメラの前で高速に移動する物体による知覚運動と振動に起因する物理的な動きを区別できない場合があります。

ジャイロスコープを搭載したAxisの電子動体ブレ補正なら、高度なジャイロスコープと最適化されたアルゴリズムの連携機能により、堅牢で信頼性の高いシステムが実現します。EISは、高振幅から低振幅までの広帯域の振動周波数に対応しているだけでなく、物理的に誘発された振動と知覚運動を常に区別することが可能です。

はじめに

監視カメラが高いポールに取り付けられていると、カメラに揺れや振動が生じる場合があるため、その映像がぼやける可能性があります。突風が吹いた場合、また近くを大型トラックや電車が通過した場合に、ポールが揺れる可能性があるためです。

これまでもこうした問題を解決するための技術の開発が試みられてきましたが、その成果の度合いはまちまちでした。しかし、効率的なジャイロスコープを最先端のソフトウェアプログラミングと組み合わせるという手法により、リアルタイムで実現する堅牢な動体ブレ補正機能が開発されたことで状況が好転しました。

本ホワイトペーパーでは、動体ブレ補正技術をご紹介し、映像監視におけるそのメリットと用途についてご説明します。

振動によるビデオ出力への影響

ビデオ品質の向上に伴い、画像のぼやけの問題もより顕著化しました。ピクセル密度や解像度が高まり、ズーム機能が強化されたことで、振動によるカメラへの影響に対する意識が高まり、映像を見る側もブレやぼやけに一段と敏感になったのです。より頑丈なマウントを使用すること、または揺れが発生しにくい設置場所を選択することで、ある程度までなら振動による影響を軽減することができます。

カメラで遠くの被写体にズームインすると、視野が狭くなり、カメラの揺れの影響が大きくなります。ズームの度合いに比例して、振幅の影響も増加します。そのため、ズームレンズを搭載したカメラには、動体ブレ補正機能が不可欠であると考える必要があります。そうすれば、強風の天候下や他の不利な状況下でも、ズームレンズを有効に利用することができます。

動体ブレ補正のメリット

動体ブレ補正により、カメラの潜在的な能力をより有効に活用できるようになるため、映像監視システムの全体的な汎用性とコスト効率が向上します。たとえば、振動により画質に影響が出やすい状況下でも、動体ブレ補正機能が備わっていれば、高品質のズームショットを捉えることができます。

振動の影響を受けにくいカメラを使用すれば、設置の柔軟性が高くなり、複数の取り付けオプションが可能となります。これにより、より少ないカメラ台数で監視要件を満たせる可能性が高まります。

あまり知られていない動体ブレ補正のメリットとして、より正確なプライバシーマスキングを実現できることが挙げられます。動体ブレ補正機能が備わっていないカメラの場合は、揺れや振動の影響をカバーするために、画像のマスク領域が増えることになります。

また、動体ブレ補正機能が備わっていれば、帯域幅の使用とストレージ容量を節約することもできます。H.264などの高度なビデオ圧縮形式には、動き補償(MC)が用いられます。つまり、この方式では、ベースラインとして単一フレームの画像が使用され、画像の変更に関する情報のみが保存されるのです。動体ブレ補正で撮影された画像の場合は、変化が比較的少ないため、必要となる帯域幅とストレージが少なくて済むというわけです。

動体ブレ補正技術

動体ブレ補正技術は、デジタルスチルカメラやビデオカメラといった消費者向け製品に搭載されています。現在、ブレ補正技術として、光学動体ブレ補正と電子動体ブレ補正の2種類があります。

光学動体ブレ補正

通常、光学動体ブレ補正システムでは、ジャイロスコープを使用して、カメラの振動が検知および測定されます。一般的にパンとチルトに限定される読み取り値を基に、アクチュエータにより光学チェーンのレンズエレメントが移動し、ブレが補正されます。

光学動体ブレ補正か電子動体ブレ補正かに関わらず、こうしたシステムによりカメラとレンズの揺れが補正されることで、カメラが振動していない場合と同じように光がイメージセンサーに入ります。光学動体ブレ補正は、長い焦点距離を使用する場合に特に有益で、これは低光量の場所でも良好に機能します。

光学動体ブレ補正ソリューションの主な欠点は高額なことです。

電子動体ブレ補正

デジタル式手ブレ補正とも呼ばれる電子動体ブレ補正は、主にビデオカメラ向けに開発された技術です。

電子動体ブレ補正は、カメラの動きをモデル化するさまざまなアルゴリズムにより、画像が補正されます。可視画像の境界線外側にあるピクセルが動きのバッファとして使用され、このピクセルの情報に基づき電子画像がフレームからフレームにシフトされることで、動きのバランスが調整されて、安定したビデオストリームが生成されます。

この手法では主に可動部品が不要であることからコスト効率は高いのですが、イメージセンサーからの入力に依存するという欠点があります。たとえば、カメラの前で高速に移動する物体による知覚運動と振動に起因する物理的な動きをシステムで区別できない場合があります。

シミュレート画像。
左:電子動体ブレ補正なしのクローズアップ。水平方向と垂直方向の両方にブレが見られます。
右:振動しているカメラで電子動体ブレ補正を有効にして撮影したスナップショット。

ローリングシャッターによる歪み

多くのビデオカメラにはローリングシャッターが搭載されています。1枚の画像撮影ですべてのピクセルが同時に露光されるグローバルシャッターとは異なり、ローリングシャッターの場合は、フレーム全体が1ラインずつスキャンされて順番に読み出されます。言い換えれば、画像全体が同時にキャプチャーされるわけではなく、各ラインが順番にスキャンされるために撮影対象に時間差が生じるということです。そのため、カメラに揺れや振動が生じると、露光されたラインが他のラインとわずかにずれるために、画像に歪みやぐらつきが発生する場合があります。高速で移動する物体を撮影する場合も同様に、像が歪んで見える可能性があります。

ローリングシャッターの歪みの原理。画像の上から下に向かってラインごとにスキャンされます。ラインがスキャンされている間に振動によってカメラがわずかに左に動くと、画像が歪んでしまいます。

動きを瞬時に補正する光学動体ブレ補正機能を用いることで、振動によりローリングシャッターで発生する歪みを回避することができます。この場合、電子動体ブレ補正には若干の欠点があります。電子動体ブレ補正の場合は、ローリングシャッター方式で少なくとも1つのラインがスキャンされた後に補正のデジタル処理が開始されるためです。しかし、現時点でもこの方式は非常に良好に機能しており、技術も急速に進歩しています。

優れた技術の組み合わせ

手頃価格の統合型ジャイロスコープおよびカメラの動きをモデル化するより効率的なアルゴリズムが開発されたことで、より優れた動体ブレ補正機能が可能となりました。また、これにより、ハイブリッドシステムを構築することができました。これは、レンズ自体を動かすのではなく、ジャイロスコープの信号に従って画像をデジタル処理するジャイロスコープ測定を使用する方式です。

その汎用性を理由として、Axisの製品にはこの組み合わせ方式が採用されています。Axisの電子動体ブレ補正(EIS)なら、高度なジャイロスコープと最適化されたアルゴリズムの連携機能により、堅牢かつ信頼性の高いシステムが実現します。このシステムは、高振幅から低振幅までの広帯域の振動周波数に対応できるように設計されています。EISの場合は、動きの計算にビデオコンテンツではなくジャイロスコープ情報が用いられるため、照明条件が悪い状況下でも非常に優れた成果が得られます。同様の理由で、EISでは、振動に起因する物理的な動きと通過する物体による知覚運動が常に区別されます。光学動体ブレ補正(OIS)は、低光量の環境下でも適切に機能します。