ビデオエンコーダ
概要
ネットワークビデオにより、多くの点で映像監視に革命がもたらされました。IPベースの映像監視システムには、画質の大幅な向上、スケーラビリティの向上、イベント管理、効率的なビデオ分析ツール、そして多くの場合、所有コストの削減といった多くの価値あるメリットがあります。しかし、さまざまな理由により、今後数年間は、アナログカメラとアナログケーブルがまだかなり活用されると考えられます。
アナログからIPへと技術が移行しているからといって、セキュリティ管理者はIP監視システムとアナログ映像監視システムのどちらかをすぐに選択しなければならない、というわけではありません。実際のところ、この2つをうまく組み合わせることで、これまでに投資した設備を維持できるだけでなく、IPベースの技術による多くのメリットを享受して、将来性のあるプラットフォームを構築することができます。ビデオエンコーダが問題解決の鍵となります。
本ホワイトペーパーでは、ビデオエンコーダの基本と使用方法、そしてビデオエンコーダにより映像監視で実現するメリットについてご説明します。最後の章には、アナログ設定から真のネットワークビデオに至るまでの映像監視システムの進化が概説されています。
ネットワークビデオを容易に活用する方法
ビデオエンコーダは、アナログCCTVシステムとネットワークビデオシステム間の橋渡しとして機能するため、レガシーシステムを長く使うことができます。簡単に言えば、エンコーダには、入ってくるアナログビデオをデジタルビデオに変換するエンコーディングチップとオペレーティングシステムが含まれているわけです。そして、次にデジタル化された信号が、ネットワーク経由で送信・記録されます。これにより、容易にアクセスして、表示できるようになります。また、エンコーダにより、いたずら警告や音声検知など、多くの機能を備えたアナログCCTVカメラシステムが実現します。エンコーダがなければ、こうした機能はIPベースのシステムでしか利用することができません。
世界中で何百万台ものアナログ監視カメラが使用されているため、ビデオエンコーダにより産業にもたらされるメリットは論理的に実証されています。しかし、一部の事業者にとっては、同軸ケーブルの設置に投資した資金がより重要な関心事項となります。ネットワークインフラのない建物の所有者は、最新ネットワークの追加に投資することはできれば避けたい、少なくとも延期したいと考えるものです。
そこで、アナログからネットワーク映像監視システムへの移行を図る場合に、ビデオエンコーダが重要なコンポーネントとなります。ビデオカセットレコーダー(VCR)からデジタルビデオレコーダ(DVR)に移行したときも、より限定的ではありますが、市場では同様の技術シフトが発生しました。DVRに移行したことで、テープを交換する必要性がなくなり、画質の一貫性が高まっただけでなく、保存された映像で手間をかけずに正確なビデオシーケンスを見つけることができるようになりました。
最終的に、DVRがネットワークに接続されたことで、リモート映像監視が実現しました。それでも、本格的なネットワークビデオシステムと比較すると、固有の欠点があります。ネットワークDVRでも、映像は依然として独自の機器に保存されます。これは、急激に拡大しているネットワークや、ビデオ管理ソフトウェアに統合する際に問題となります。また、DVRではスケーラビリティにも限りがあります。
仕組み
ビデオエンコーダにより、アナログビデオの信号がビデオストリームに変換され圧縮されます。これはネットワークカメラからのものと同じであるため、ネットワークビデオシステムに完全に統合することが可能です。エンコーダからネットワークスイッチを介して、ビデオストリームがIPネットワーク経由で、監視と録画用ビデオ管理ソフトウェアを実行中のPCサーバーに送信されます。ビデオがIPネットワークを介して継続的に送信されるため、これは真のネットワークビデオシステムと呼べるものです。ユーザーは、ローカルやリモートのコンピューター、または携帯電話やタブレットなどのワイヤレスデバイスでライブビデオを表示することができます。
エンコーダによるIPのメリット
アナログシステムと比較して、リモートモニタリングとビデオ録画には明らかな利点があります。さらにハイエンドのビデオエンコーダの場合には、監視システムにおいてIPによる、より多くのメリットがもたらされます。
デジタル画質
アナログ画像とは異なり、デジタル画像では伝送距離に関係なく品質が維持されます。また、ビデオエンコーダにより、画像の微調整やアスペクト比補正も可能です。これにより、PC画面に表示したときにも画像の歪みが発生しません。高性能ビデオエンコーダなら、すべてのビデオチャンネルのすべての解像度でフルフレームレート(NTSCでは30 fps、PALでは25 fps)が可能となります。一部のエンコーダでは、1080pの解像度のHDアナログカメラもサポートされています。
インテリジェントアプリケーション
ビデオエンコーダにより、分散ビデオ動体検知、いたずら警告、イベント管理、統合音声サポートなど、多数の高度機能を有効化することができます。
リモートPTZコントロール
多くのビデオエンコーダには、PTZ(パン/チルト/ズーム)コントロールが備わっています。これにより、コンピューターのマウスやジョイスティックを使用して、ネットワーク経由でアナログPTZカメラを制御できます。コントロールコマンドはビデオと同じケーブルを経由して伝送され、通常、シリアルポートを介してビデオエンコーダからPTZカメラに転送されます。
Power over Ethernet
ビデオエンコーダでPower over Ethernet(PoE)がサポートされている場合は、データ転送に使用するケーブルで電力供給も行うことができます。PoEを利用すれば、電源ケーブルを設置する必要がなくなるため、システム全体で大幅なコストカットが実現します。また、サーバールームが無停電電源装置 (UPS) に接続されていれば、PoE経由でバックアップ電源からエンコーダに給電できるため、停電が発生した場合も動作が継続します。
サイバーセキュリティ
エンコーダを追加すれば、ネットワークDVRを標準のコンピューターサーバーとモニターに置き換えることができます。標準装備を使用できるというメリットに加えて、常に継続的なセキュリティ更新とウイルス対策が可能となるため、ネットワークDVRよりもサイバーセキュリティが強化されます。
Axisは、サイバーセキュリティのベストプラクティスを適用しています。しかし、ネットワークやそのデバイス、そしてネットワークによりサポートされるサービスを保護するには、ベンダーのサプライチェーン全体とエンドユーザー組織が積極的に連携しなければなりません。たとえば、ユーザーは安全なパスワードプラクティスを維持し、ネットワークデバイスへの物理的アクセスやデジタルアクセスを制限するだけでなく、ファームウェアとソフトウェアを最新のセキュリティパッチで継続的に更新する必要があります。
拡張性と柔軟性
IPシステムなら、新しいカメラを追加することも、カメラを移動することも簡単にできます。録画と管理は標準的なコンピューターハードウェアに基づいているため、ストレージを増やす必要性や、インフラの他の部分をアップグレードする必要性が発生した場合にも、多数のベンダーやプロバイダーから製品を選択することができます。
アナログCCTV/DVRシステムとは異なり、ネットワーク映像監視はオープンで相互運用可能な標準に基づいて構築されています。ビデオエンコーダには、Motion JPEG、H.264、H.265など、広く受け入れられている圧縮規格が使用されているため、帯域幅やストレージを大幅に節約することが可能です。標準規格を利用できるということは、独自の技術にとらわれるリスクも回避できるということです。また、IPベースのビル管理システムや工業・ロジスティックソリューションなどの他のシステムと統合することもできます。異なるシステムを組み合わせて統合できるため、ネットワークビデオに基づく監視への投資という点でも大きなメリットがあります。これは、アナログカメラが多数存在する企業の設置で特に有用です。
さらに、ビデオエンコーダにより、将来性に優れた映像監視システムが実現されます。ユーザーは、ネットワークカメラを追加して、プログレッシブスキャン、メガピクセル、HDTVや4K画質の高解像度ビデオなど、ネットワークビデオシステムのすべてのメリットを活かすことができます。
エッジストレージ&クラウドストレージ
多くのエンコーダには、メモリーカードスロットが備わっています。これにより、SD(セキュアデジタル)メモリーカードなどに録画をローカルに保存することが可能となります(エッジストレージ)。これは、中央ストレージを補完するものとして、または中央システムが利用できない場合のバックアップとして使用することができます。このシステムでは、ネットワークの中断や中央システムのメンテナンスのために欠落したビデオクリップを後でカメラ/エンコーダから取得して、中央ストレージとマージすることもできます。これにより、中断のない完全なビデオ録画が確保されます。
クラウドストレージをサポートしているエンコーダなら、ストレージハードウェアの投資コストが削減されます。クラウドストレージでは、サーバーは保護された施設に配置されており、データの保護やバックアップのための厳格なシステムが導入されているため、物理的セキュリティとサイバーセキュリティの両方の観点から高度な安全性が実現されます。
ビデオエンコーダの種類
最も一般的なビデオエンコーダは、アナログカメラへのシングル接続またはマルチチャンネル接続を備えたスタンドアロンバージョンです。多くの場合、スタンドアロンのビデオエンコーダは、アナログカメラの近くに配置され、通常、遠隔施設にはアナログカメラがそれほどない状況や中央監視室からそれほど離れていない所に設定されている状況で使用されます。

大規模な集中型システムの場合は、エンコーダブレードを備えた高密度ラックが最も柔軟なソリューションとなります。通常、ブレードでは4つか6つのチャンネルがサポートされています。ビデオエンコーダブレードと組み合わせてビデオエンコーダシャーシを設置することができます。最大84個のアナログチャンネルに対応することが可能です。これにより、大規模なアナログ設備をネットワークビデオに移行する状況で、柔軟性が高く拡張可能なソリューションが実現します。ホットスワップを使用すると、ビデオエンコーダブレードを設置または削除する場合に、システム全体の電源を切る必要がなくなります。

Axisのビデオエンコーダを使用したIPへの移行
ネットワークカメラと同様に、ビデオエンコーダには、組み込みのウェブサーバー、エンコーディングチップ、オペレーティングシステムが含まれています。ビデオエンコーダは高度な製品です。そのため、ビデオエンコーダを選択する際には、ニーズを慎重に評価して、技術仕様を比較する必要があります。
Axisは、従来型の基本的な装置から、I/Oポート、シリアルデータ通信、音声、HDアナログカメラのサポート、分析機能のための強力なプロセッサといった高度な機能を揃えたモデルに至るまで、包括的なビデオエンコーダのラインナップをご提供しています。Axisは長年にわたり、標準のIT機器に基づいて、高い将来性と柔軟性があるスケーラブルなシステムを提供することに注力しています。この取り組みの一環として、ビデオエンコーダをご用意しています。ビデオエンコーダは、当社の製品ポートフォリオにおいて不可欠な製品です。当社は各エンコーダの購入日から5年間にわたり製品サポートを提供しているため、安心してご利用いただけます。
前述したIPのメリットに加えて、特定のAxisビデオエンコーダは、Axis Zipstream technologyを搭載しています。これには、H.264とH.265圧縮規格がより効果的に実装されています。Zipstreamにより、帯域幅とストレージの要件を大幅に削減して、監視ビデオの重要なフォレンジック用詳細映像をすべて保持することができます。
Axisのビデオエンコーダでは、Axisだけでなく、主要なサードパーティ製アプリケーション開発者のビデオ管理ソフトウェア(VMS)がサポートされています。また、Axisのビデオエンコーダは、AXIS Camera Application Platform(ACAP)を備えています。これにより、Axisやサードパーティ開発者が開発した高度なビデオ分析などの機能を持つアプリケーションをカメラで直接実行することができます。
映像監視システムの進化
アナログビデオシステム
VCRベースのアナログCCTVシステム
DVRベースのアナログCCTVシステム
DVRシステムを導入することで、VCRベースのシステムと比較して、以下のような主要なメリットが得られます。
テープが不要であるため、テープを交換する必要性がない。
一貫した録画品質を実現できる。
録画したビデオをすばやく検索できる。
アナログ技術とIP技術を組み合わせたビデオシステム
ネットワークDVRベースのアナログCCTVシステム
ネットワークDVRシステムには、以下のようなメリットがあります。
PC経由でビデオのリモートモニタリングが実現する。
システムのリモート操作が可能となる。
ビデオエンコーダベースのネットワークビデオシステム
ビデオエンコーダベースのネットワークビデオシステムには、以下のようなメリットがあります。
ビデオの録画と管理に標準ネットワークとPCサーバーハードウェアが使用されている。
システムがスケーラブルであるため、1台のカメラから開始できる。
オフサイトで録画できる。
高度なビデオ分析やその他のアプリケーションを利用できる。
POS(店舗販売時点管理)や建物管理などの他のシステムと容易に統合できる。
Power over Ethernetを利用する機能が得られる。
IPカメラを組み込んでシステムを容易に拡張できるため、将来性がある。
同軸ケーブルを使用したネットワークカメラベースのビデオシステム
同軸ケーブルのインフラが既設の場所では、IPカメラを同軸イーサネット変換アダプターと一緒に使用できます。これにより電力とデータを同軸ケーブルを経由して伝送できるようになります。このソリューションは、カメラの台数が少なく、長距離同軸ケーブルがほとんど必要ない小規模なビデオシステムに適しています。同軸ケーブルを使用したネットワークカメラベースのビデオシステムには、以下のようなメリットがあります。
既設の同軸ケーブルを利用できる。
同軸ケーブルを介してPoEとPoE+を伝送できる。
設置が簡単である。
信頼性の高い構成が実現する。
同軸ケーブルをアナログカメラとIPカメラ両方に組み合わせたネットワークビデオシステム
場合によっては、既存の同軸ケーブルすべてをイーサネットケーブルに置き換えることは現実的または経済的ではありません。アナログシステムをデジタルに変換する同軸イーサネット変換アダプターを利用すれば、同軸ケーブルをIPカメラに使用することができます。このアダプターは、シングルチャネルユニットおよびマルチチャネルブレードとして提供されており、ビデオエンコーダシャーシに使用することが可能です。通常、マルチチャネルブレードは、同軸ケーブルが中央に配置されている大規模な導入に使用します。ビデオエンコーダシャーシは、ビデオエンコーダブレードと同軸イーサネット変換ブレードを同時に使用できるため、ネットワークカメラへのシームレスな移行が可能になります。同軸ケーブルを、アナログカメラとIPカメラの両方と組み合わせたネットワークビデオシステムには、以下のようなメリットがあります。
既設の同軸ケーブルを利用できる。
既存のビデオエンコーダシャーシを再利用できる。
同軸ケーブルを介してPoEとPoE+を伝送できる。
設置が簡単である。
信頼性の高い構成が実現する。
アナログカメラとネットワークカメラを組み合わせることができ、シームレスな移行が可能となる。
ネットワークビデオシステム
ネットワークカメラベースのネットワークビデオシステム
ネットワークカメラベースのネットワークビデオシステムには、以下のようなメリットがあります。
高解像度(メガピクセル、HDTV、または4K)カメラを使用できる。
距離に関係なく、一貫した画質が得られる。
Power over Ethernetとワイヤレス機能を使用できる。
パン/チルト/ズーム、音声、デジタル入力と出力、ビデオなどの機能にフルアクセスできる。
IPを介したカメラ設定とシステム調整が可能となる。
完全な柔軟性とスケーラビリティが得られる。